リクエストSS

□大捜索戦線
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「こっちが足取りが消えるまでの目撃情報。並盛各所で目撃されている事から、隣町でも目撃されている可能性もある。今までは並盛だけだったけど捜索範囲を広げるつもりだ」

「……」

「徒歩やバイクでの捜索は限界があるからね。ヘリを貸してもらえるかい。それとあなたの部下の半数」

「……」

「まさかと思うけど、またボンゴレやあなた絡みの面倒事に巻き込まれていないとも限らない。残りの人員にはその辺の情報収集を頼むよ」

「……おい」

「何にしても、並盛の風紀を乱した誘拐犯は見付け次第咬み殺す。命乞いなんてさせやしない」

「たかが鳥一羽いなくなったくらいでそこまでする事か!?」

マフィア間の抗争や取引に相対するかのような真剣な雲雀の話に耳を傾けていたディーノだったが、話が進む程こめかみに血管が浮き出しついには声に出して叫んでしまったが、恐らくディーノの言い分は正しい。
だが、正しい事がいつも受け入れられるとは限らない。それを体現している第一人者が目の前の少年だ。

「たかが?言っておくけどあの子はただの鳥じゃない。物覚えはいいし歌だって歌えるし空気だって読める」

「そう言う問題じゃねえ!……んだよ、てっきりまた誰か失踪したのかと」

「もう三日も姿を現さない。立派な失踪事件じゃないか」

「ちげーよ!」

『行方不明』『失踪』
限りなく大きな意味合いでは間違っていないとも言えなくはない、かもしれない。
そんな曖昧な表現を使いたくなるのは、ひとえにその対象が雲雀の可愛がっている黄色い鳥――ヒバード――だと言う事に尽きる。

「いっつも一羽で気ままに行動してんだろ。パタパタ空の散歩してりゃ黒曜町や更にその隣の町まで飛んでたっておかしくねーよ」

「その調子であなた国にまで行ってたらどうするのさ。早く向こうの部下に指示入れて探させなよ」

「あのちっさい身体でどうやってイタリアまで飛ぶんだよ!渡り鳥でもやんねーよ!」

「あなたのせいなんじゃないの」

「はあ!?」

「あなたの敵対組織があなたの動きを制限させるために鳥質に取ったのかもしれない」

「待て待て待て。鳥一羽で相手の言い分聞かされるマフィアのボスってどんなだよオイ。大体何でヒバードなんだよ。人質に取るならシマの奴らでもファミリーの奴らでももっと適切な人員がいるだろうが。それならむしろお前はどうなんだよ」

「僕が何」

「ヒバードの身柄押さえてお前に仕返ししたい奴らがいるんじゃねーの?お前ぜってーあちこちで恨み買ってんだろ。心当たりねぇのかよ」

「咬み殺した草食動物の顔なんていちいち覚えていない」

「これだよ……」

ぐったりとソファに身を投げ出してディーノは頭を抱える。
可愛がっているペットの姿が見えなくなって心配するのは当然の事だ。日が経てばそれだけ胸が痛むのも良く分かる。誰だって探しに出たり心当たりが無いか尋ねて回るだろう。
だが雲雀のそれは、どう考えても規模がおかしい。

あちこちに散らばった風紀委員達は、小さな鳥が隠れていそうな場所を虱潰しに探しているらしい。
一方で町内の目撃情報を集め逐一報告し、新たな指示を受けてはまた走り回る。

(俺んちより働かされてるよな、アイツら……)

「ねえ」

委員達を不憫に思い一人目頭を熱くしていたところに雲雀の声が降って来て、ディーノは渋々顔を上げる。

「『任せろ』って言ったよね」

見下ろす雲雀の目は怖いくらい据わっていた。

「とにかく、協力してもらうよ」

「だーもう!わーったよ!」

言いたい事も突っ込みたい所も山程あるが、約束は約束だ。
ガシガシと頭をかきながらディーノは身を起こすとズボンのポケットから携帯電話を取り出した。

「何呑気に電話なんてしようとしてるの。五千の部下を今すぐ集めてくれるって言うなら構わないけど」

「うっせぇ。ロマだロマ。お前の手伝いすんなら少し仕事の調整させねーと駄目なんだよ」

「差し出がましいのですが……」

それまで一言も口をきかず脇に控えていた草壁がそっと会話に割り込んで来た。

「ディーノさんからお手伝いの申し出を頂いた時点でロマーリオさんに報告の必要があると考えて、先にご報告致しました」

「つー訳だ、ボス」

「ロマ!お前いつの間に!」

突然現れた右腕にディーノは驚愕するが、説明する手間が省けたと胸を撫で下ろす。
だが一瞬の安堵は右腕の放った一言で霧散した。

「ヒバードならホテルにいるぜ」

「はあ?」

「どういう事なの」

ちゃきりとトンファーのギミックを作動させる音にディーノの背に冷たい汗が流れる。

「説明しなよ」

ぴたりとディーノの首筋に当てられた仕込トンファー。
鉄状の棘は僅かに頚動脈に食い込んでいる。

「刺さってる!恭弥刺さってる!」

「説明するより見た方が安心するだろ。車回して来るから一緒に来い」

ロマーリオの言葉に納得したのか、雲雀は武器をしまいディーノを置いて部屋を出て行った。

(いつかぜってー殺される……俺アイツに殺される……)

かつて大勢に取り囲まれ拳銃を突きつけられても平気だったが、さっきは本気で命の危険を感じた。
鳥よりも軽い命の持ち主は心で泣きながら、それでもヨロヨロと雲雀達の後を追った。
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