リクエストSS

□大捜索戦線
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並中の敷地内には一種異様な雰囲気が漂っていた。
そこかしこに立つ風紀委員達。
委員全員が狩り出されているのかと思われる程の人員は、しかし他の生徒達をどうこうする様子は伺えない。ただじっと校内の要所要所に待機し、時折他の委員と短いやりとりを交わし、また持ち場に戻る。

(何だコイツら……まあ、恭弥の指示なんだろうけど)

いつものようにふらりと軽い気持ちで現れたディーノだったが、あまりに物々しい様子に自然と歩みはゆっくりとしたものになる。それでも咎められる事なく目的の場所である並中応接室の前まで辿り着くと、ディーノはドアの前に来訪者を塞ぐ形で立っていた風紀委員にいつもの調子で挨拶をした。

「よお」

いつもなら何も言わずに身をどかしディーノを室内に入れてくれる委員達だが、どうも今日は様子が違うようだ。

「委員長は取り込み中です。申し訳ありませんがお引取り下さい」

「あ?仕事中?だったら邪魔しねーから中で待たせてくれないか」

「副委員長からの報告を受けておいでです。他言無用なので、その間は誰も室内には入れるなと……」

草壁から報告を受けている姿なら何度も見ている。予算についてだったり、校則違反者の処罰についてだったり、その内容は多岐に渡るがうるさくしなければ部屋から追い出される事はなかった。
最初から入れてすらもらえないと言うのは、思えば始めての事態だった。

「そんなに大事な話なのか」

ディーノだってマフィアのボスだ。幹部だけを集めて内々の相談事をする事も珍しくない。
規模は違えど、雲雀にとってもそれくらい重大な案件なのかもしれない。

「終わるまでここで待ってて、恭弥の許可が出たら入っていい?」

雲雀の立場や目の前の委員の立場を慮って譲歩すると、委員は明らかにほっとした顔で快諾してくれた。

周囲が静まり返っているせいで、ドアの向こうからはぼそぼそとした話し声が聞こえてくる。
やがてその声も途絶え草壁の手によってドアが開けられた。

「おつかれさん」

手を挙げにこやかに挨拶をよこすディーノに草壁は僅かに目を見張り、けれどすぐに居住まいを正し一礼する。

「仕事の話終わった?中入ってもいいか?」

問われた草壁が雲雀の方へ向き直ると、執務机で書類に目を走らせていた雲雀が顔を上げた。
ヒラヒラと手を振るディーノを見つけると盛大に鼻の頭に皺を寄せて嫌そうな顔をする。

「帰って。今日はあなたと遊んでる暇がない」

雲雀はドアの方へ歩いて来てくれたが、用事があるのはディーノではなくドア前で番をしていた委員の方だったようだ。

「これを全員分コピーして各自頭に入れておいて。それと、捜索範囲を広げるから」

「はい」

「追って指示する。持ち場に戻っていいよ」

「失礼します」

雲雀は手にした書類を委員に渡すとさっさと室内に戻ってしまった。

「恭弥」

「まだいたの。僕は忙しい。邪魔しないで」

「捜索って何だよ。それに今の書類」

受け渡し時にちらりと見えた書類の文面。細かい文字こそ読み取れなかったものの、比較的大きな文字で書かれていた『行方不明』『目撃情報』等の文言はどう見ても穏やかではない。

「何が起きた」

行方不明と聞いてディーノがすぐさま思い浮かべるのは、白蘭との戦いの為沢田綱吉やその守護者達が未来に飛ばされた一件だ。

突然リボーンや綱吉達と連絡が取れなくなり、何が起きたのか分からぬまま時間だけが過ぎ、やがて可愛い教え子も姿を消した。
結果としてそれらは全て丸く収まりいつもの日常が戻って来た訳だが、あの時の身を切られるような喪失感や無力感を忘れる事は出来ない。

(あんな思い、もう二度としたくねぇ)

今、並盛で何かが起きているとはリボーンからも聞かされていない。並中に来るまでの町の雰囲気はいつもと変わらず平和なものだったし、校内の重々しい空気は風紀委員達だけに限られていた。
まだ風紀委員会内部だけで抑えているのだろう。

「話してくれ。頼む」

今度こそ力になりたい。雲雀を助けて、その細い身体に抱えるものを少しでも軽くしてやりたい。
真剣な思いが通じたのか、ディーノを見据える雲雀の睫が弱く震えた。
ほんの僅か揺れた瞳は、不安の表れ。

「……いないんだ。探しても見つからない」

唇から零れた声はいつも通り凛として、けれどどこかか細くて。

「俺も手伝う。部下にも調べさせる。人数は多けりゃ多い程いいだろ。だから何が起きてるのか教えてくれ、頼む」

暫く逡巡していた雲雀だったが、

「俺に任せろ」

ディーノの力強く真摯な言葉にやがて小さく頷き、部屋の中に招き入れた。
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