リクエストSS

□一般論それとも特殊論
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全ての項目にチェックの入ったリストを眺め雲雀は無表情ながらも機嫌の良さそうな顔で、夕食用の買い物客でごった返す並盛商店街を闊歩している。
結局、ディーノは朝から丸一日雲雀に付き合わされた事になる。

「デートって言ったくせに」

雲雀の仕事を垣間見る事が出来たのは嬉しかったし実際の所楽しかった。それでも多少は雲雀に構って貰いたくてディーノはふくれて拗ねてみせる。

「デートじゃないか」

「どこがだよ。殺伐とした集金活動じゃねーか」

「ほら」

ごそごそと携帯を操作していた雲雀が見せてよこした画面。よくある辞書アプリの表示画面。

「『デート:恋愛関係にあるもしくは恋愛関係に進みつつある二人が、連れ立って外出し一定の時間行動を共にすること』ってある。間違ってないじゃないか」

「……」

雲雀はさっさと歩き出してしまうがディーノは固まったままその場から動けない。
確かに今日の行動は、ディーノが思うところの一般的なデートとはかけ離れている。だが今問題にするのはそこではなく『恋愛関係云々』の文。

(う、わ)

どうやら雲雀は二人の関係をちゃんと恋愛関係だと思ってくれているらしい。
抱き合い、口付け、夜は身体を重ねる関係を恋人同士と呼ばずして何と呼ぶのだとは思うが、日頃から愛の言葉を告げる自分と異なり雲雀の口からその手の言葉が出る事はほぼ無いに等しい。
だからこそ先程携帯に表示された文字は衝撃だった。

「恭弥!」

歓喜のあまり前を歩く雲雀に衝動的に抱きつこうとしたディーノだったが、その身体に手が触れる前に雲雀は不意に進む方向を変えてしまう。

「ここで待ってて」

伸ばした腕の行き場に困るディーノを余所に雲雀が向かったのは、たい焼きを売る小さな屋台。
この手の屋台も暴力団の息が掛かっていると聞いた事がある。仕事絡みか、と大人しくディーノが待っていると、やがて両手にたい焼きを持った雲雀が戻って来た。

「はい」

「お?」

「一日付き合って貰ったからね。お礼だよ」

「そっか、サンキュ」

片方のたい焼きを差し出す雲雀に礼を言ってディーノは受け取る。

「お前、ホントあちこちの奴らに顔が利くんだなー。貰ったのか?」

「違うよ。買ったんだ」

「そうなの?」

暴力団の組員に限らず雲雀がこの並盛町で顔が利き、行きつけの飲食店では店が代金を徴収しない所もあると言うのはディーノも知っていた。だからこれもてっきりそうだと思ったのだが、雲雀は心外だと言わんばかりにムスっとして否定した。

「あなたも町の人達から物を貰う事あるんじゃないの」

「あるぜ」

事実なのでディーノは即答する。
採れたばかりの野菜や魚を届けてくれる人もいれば、改装祝いと言って店の商品を贈ってくれる店主もいる。
純粋な好意からの時もあるしキャバッローネに守ってもらう代償としての献上の時もある。
ディーノにはそれと今の会話がどう関係あるのか分からなかったが、続く雲雀の言葉で繋がった。

「そうした貰い物をあなたは僕へのプレゼントに流用するの?」

そんな事、一度だってした事はない。
貰った物がどうこうではなく、雲雀への贈り物は高価な物だろうが廉価な物だろうが自分の目で見て自分の所持金で選びたいからだ。
と言う事は―――

「そう言う事」

豪快に大口開けてたい焼きに齧り付く雲雀は、照れるでも言い訳するでもなく、至極当然のようにそう言う。
一日の最後の最後に雲雀から愛情の贈り物をされたように思えて、ディーノは締まりのない笑顔になってしまう。

「変な人。そんなにそれが気に入ったなら次はあなたが買いなよ」

「いいぜ。十個でも二十個でも買ってやる」

「そんなにいらない。それよりそろそろ晩ご飯が食べたい」

「おう、ホテルでハンバーグ食わせてやるから来いよ」

「和風のがいい」

「了解」

丸一日町を歩き回ったデート。楽しくて、嬉しかったデート。
健全なデートも悪くないけど、締めくくりはやっぱり恋人同士らしく過ごしたい。

二人はデート帰りの恋人同士とは思えない距離を取りながら、恋人同士の夜を過ごす為雑踏の中に消えて行った。








2011.03.21
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