リクエストSS

□一般論それとも特殊論
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最後の訪問先は店舗ではなく個人の邸宅だった。
そこそこ広い敷地、そこそこ大きな日本家屋、そこそこの人数がたむろする邸内。

(ま、そこそこの組ってトコかな)

ディーノは何の緊張感もなく雲雀の後に胡坐座になり周囲の様子を見る。

通された部屋はそれなりに品のある和室で、おそらく来客用の部屋なのだろう。
開け放たれた襖の向こうに見える庭には、こちらの様子を伺う風の男達が何人か。
今雲雀の目の前で額を畳に擦り付けている男をはじめ、この家にいる連中は雲雀の敵じゃない。
ディーノは瞬時にそう判断し、目の前で繰り広げられる遣り取りを観客気分で眺める事にした。

「先月分がまだ入金されてない訳なんだけど、どう言う事かな」

「その……該当月の売上が予想外に低くて……」

「知ってるよ。だから徴収金額も下げた筈だけど」

「それまでの借入金の返済ですとか、値下がりした株式で目減りした資産の償却ですとか、色々マイナス計上がございまして……」

「僕には関係ない事だね」

組長のしどろもどろの弁解を雲雀は一蹴する。
背筋を伸ばし正座する姿は綺麗でディーノは見惚れるが、その口から出る言葉は辛らつだ。

「無茶な金額は提示していない筈だ。ここの下っ端達がコソコソとカツアゲをしているとも聞いてるけど、そのお金はどこに行ったのかな」

「いえ……そのような事はこちらの耳には……」

「入ってない筈ないよね。僕でも知ってる事だ。現場を押さえた訳じゃないからまだ手は出してないけど、いつまでも野放しにしておくようなら」

雲雀は言葉を切ってディーノに視線を移す。
ディーノはその意図を悟り立ち上がると、腰に隠していた鞭を取り出し庭に向かって振るった。

一瞬にして派手な音を立てて粉々になる石灯篭。
苔むした岩や樹木の類を狙わなかったのは、元通りに出来るか否かが判別基準だからだ。

「咬み殺す。こんな風にね」

声も無く庭を見遣る男達の間に、涼やかな雲雀の声だけが響く。

「延滞金を上乗せした徴収金額はこれだよ。期日までに振込みが確認出来なかったら、もっと荒っぽい手段に出る事になるけど……いいよね」

「は……はいっ」

雲雀は立ち上がり、組長の目の前に書類を放り投げ踵を返す。
そんな雲雀と

「邪魔したな、チャオ」

手を振りにこやかな笑顔を振りまく陽気なイタリア人を、男達は相変わらず一言も言葉を発せぬまま見送った。
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