リクエストSS
□一般論それとも特殊論
1ページ/3ページ
晴天の休日。並盛町の繁華街には休日を満喫するカップルも少なくない。
時に寄り添い時に楽しげに会話に興じている彼らと自分達は、傍目にはそう変わらないのではないかとは、溜息つきつつディーノはそう思う。
「デートしてくれんじゃなかったのかよ」
「そうだよ」
「これのどこがデートだよ!」
今朝の、突然の雲雀からの着信。
ディーノの仕事だとか予定だとかを考慮する素振りも見せず
『あなたと一緒に行きたい場所がある』
流石に即答は出来ずスケジュール表と睨めっこするディーノを落としたのは
『僕とデートしなよ』
の一言。
聞けば飲食店だと言う。
初めての雲雀からのデートの誘いに舞い上がり、大喜びで待ち合わせ場所に現れたディーノに罪は無い。
多分。
「何一つ嘘はついてないけど」
事実である。
もっとも、雲雀がディーノを伴って連れて行った飲食店とやらは例外無く暴力団本体あるいは息の掛かった企業が経営している店で、訪問の目的は食事でもお茶でもなく。
「アガリの徴収じゃねえか」
「商業許可権利代の定期集金だよ」
「同じだ同じ」
通常は一般人が商売で得た利益の中からその縄張りを支配する暴力団等に支払うものだが、ここ並盛において絶対なのは警察権力でも非合法組織でもなく、雲雀恭弥個人だ。
善良な一個人や企業には何の枷も負わせないが、暴力団が経営する店舗に対しては一切容赦しない。
月に一度雲雀は風紀委員達を引き連れ、こうして該当店舗を回っては前月度売上金の数パーセントを『集金』しているのである。
雲雀は悪びれる事なく手元の資料に何やら書き込んでいく。
「風紀委員達はどうしたんだよ」
いつもは数名の委員を連れて集金に行っていると言う。今回ディーノに声がかかった理由はまだ聞いていなかった。
「インフルエンザで寝込んでいるのが何人かいてね」
冬も終わりに向かう時期だがまだウィルスは活動を止めていない。罹患者以外にも念の為自宅待機を言い渡したのだそうだ。
だからと言って代役にディーノに白羽の矢が立つ理由が分からない。
さっきまでのやり取りを見ても、雲雀一人でも何ら問題なく思えるのだが。
「基本的には僕一人で十分なんだけどね。何らかの理由で彼らの店の品物を没収する必要に迫られた時、人手があった方がいい」
『何らかの理由』と言うのは、例えば雲雀に刃向かったり危害を加えようとしたり、まあ、その手の類の事だろう。
「それとは違う意味だけど、あなたは役に立つ」
振り向いた雲雀は楽しげに口端を上げていた。
「彼らも一応その道のプロだからね。カタギかそうじゃないかくらいはすぐ分かったみたいだ」
長身の外国人男性。首元とむき出しの左手には派手なタトゥー。
それらに加え裏の稼業共通の匂いを嗅ぎ取ったと言う事か。
「話が非常にスムーズだったよ」
ディーノは一切口を出す事はしなかったが、対応した男達がしきりとディーノを気にして雲雀の要求をことごとく呑んでいたのは、この目で見て知っていた。
上機嫌で小さく笑う雲雀は子供らしくて可愛らしいが、上機嫌の理由は全くもって子供らしくも可愛らしくもない。
(やれやれ)
先が思いやられる、とディーノは苦笑する事しきりだが、当の雲雀はそれに気付かず次の訪問先へと道を急ぐ。
「後は何件あんだよ」
「後一件だけ。でもここはちょっと話が長くなるかな」
「ふーん?」
まあ、今までの例を見ても大した事にはならないだろうとタカをくくり、ディーノは雲雀の後についていった。