リクエストSS

□Chase!
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「まだ吐く気にはならないか、ドン・キャバッローネ」

並盛の市街地から外れた場所に建つ廃ビル。
昼も夜も人気は殆ど無い筈のその場所に蠢く数名の人影。

「あんた自ら出張ってくるとは、よっぽどあんたんちは人材に恵まれてないんだな、ブラスコ」

ディーノが乗る車に発砲し車ごと体当たりを食らわせて動きを止め、リアシートに腰掛けたディーノに拳銃を突きつけたままこの場所に移動させたこの男。
ブラスコと呼ばれたこの男は、イタリアにおいてディーノ率いるキャバッローネファミリーと敵対する立場にいるカロッツェリアファミリーのボスである。
ファミリーとしての歴史も規模もキャバッローネとはまるで比べ物にならない弱小ファミリーだが、諜報面においては一目置かれる事も少なくなかった。

虎視眈々とカロッツェリアが狙っていた運河通行の利権。それをあっさりと横からキャバッローネに奪われかけ、彼らは契約締結に必要なデータを血眼になって手に入れようとしていた。

「言っとくけどこっちは正規の取引で手に入れたんだ。情報がいかに大事かは、あんたも知ってんだろ」

声だけ聞けばディーノは常と変わらない。
けれどこめかみからは血が流れ、床に転がされた身体は土埃に汚れている。両腕は後ろ手に縛られ周囲にはご丁寧にも銃を構えた複数の男達が待機し、少しでもおかしな動きがあればトリガーを引く、と言う無言のプレッシャーをかけている。

そんな逼迫した空気の中、ディーノはいつもの調子で話を続ける。

「俺を殺そうとしたところでウチの奴らは口を割らねえよ。てめえらを潰す理由が出来て却って感謝するくらいだ」

「黙れ!」

ブラスコは怒りに任せ銃のグリップでディーノのこめかみを殴打する。
血にまみれていたそこからは新たな鮮血が流れ落ちる。

日本円にして数百億の金が動く極秘データを、信頼する部下とは言え他人に預けるとは思えない。
この廃ビルに連れて来られた時点でディーノの衣類は徹底的に調べられたが、それらしい物は未だ発見されていなかった。
締結を阻止するだけでは不十分なのだ。データを手元に置かなければ意味が無い。

ここでディーノを殺してもキャバッローネに報復されるだけで何らメリットはない。
けれど、既にディーノを拉致し報復を受ける資格を得てしまったブラスコは冷静な判断力を失っていた。

「もういい!お前ら撃て!殺してしまえ!」

「けどボス。こいつを殺したらキャバッローネに……」

「強力な自白剤でも取り寄せて時間を掛けた方が……」

「この腰抜け共が。お前らがやらないなら私がやる」

ブラスコは血走った目でディーノの額に銃を突きつけた。

「あの世で9代目と仲良くするんだな」

「親父には悪ぃが俺にはこの世で仲良くしたい奴がいるから、今はまだ死ねねえな」

「ほざけ」

トリガーにかけたブラスコの指に力がこもる。それでもディーノは目を逸らさない。
周囲の男達が息を飲んだ、その瞬間。

「ぐああぁっ!」

廃ビル入り口から男の悲鳴が響いた。
階段を転がり落ちて来たのは見張りに立てていた男。下っ端だがそれなりに腕は立つ筈だった。

「誰だ!?」

その場にいる全員が突然の乱入者に気を取られている隙をディーノは見逃さない。
するどく足を振り上げブラスコの足を払う。

「ぐっ!」

手から落ちた銃を遠くに蹴り飛ばし、その反動を生かして上体を起こし拘束されたまま腕を振り回す。

「こいつ!」

余った太い縄の先は鞭の要領でしなり、背後にいた男達を打ち据えた。

「少しは残しておきなよ。わざわざこんな所にまで出向いたんだから」

入り口の階段から降りて来た少年がディーノを睨みつけた。
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