リクエストSS
□Chase!
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「よう、恭弥」
ディーノの腹心ロマーリオは雲雀を見ても特に気にした風もなく、いつも通りに声をかけてよこした。
「聞いてると思うがボスはちっとばかり取り込み中でな」
「メールが来てたし学校にいた黒い人にもそう聞いてる」
「んじゃ、何しに来たのか聞いてもいいか?それでもボスに会いたいからとか何とか言ってくれりゃー俺らも嬉しい事この上無いんだが」
「そう言ったら通してくれる訳?」
雲雀が言葉遊びを好む手合いではない事はロマーリオは百も承知だ。もちろん言葉通りに受け止める事もない。
「後日出直してくれりゃ、その時は二つ返事で通してやるぜ」
言外に今日は帰れと言われて雲雀は思案する。
けれど雲雀が決断を下す前にロマーリオの懐から流れたメロディーに、黒服達の視線が集中する。
携帯越しに早口で交わされるのは、今朝のディーノの口から聞こえたのと同じ異国の言葉。その意味を知る事は雲雀には出来ない。
けれど携帯から漏れ聞こえる声なら判別はつく。
雲雀を囲む全ての意識がロマーリオに集中し、当のロマーリオは会話に集中している。
ぽっかりと空いたエアポケットのような雲雀は、誰にも諌められる事なくロマーリオの手から携帯を取り上げる事に成功した。
「何してるの、ディーノ」
一瞬の沈黙。それは周囲も電話の相手も。
そして
『恭弥!?』
続く大音量も同様に。
「あなたが何してるかなんてどうでもいいや。けど、町中に群れてる黒服達は目障りだ。どうにかしなよ」
『や、それは我慢してくれよ。ちょっとだけだから』
「あなたがしないなら自分でどうにかするけど、それでいい?」
『ダメ!それはダメ!いい子だから明日まで我慢して!明日俺らイタリアに帰る事になったから、それまで我慢して!』
「聞いてない」
メールによると今日明日会えないとの事だった。イタリアに帰るのならそんな言葉は選ばない。
ならば突然の帰国はそのメールを送信した後に決まった事か。
何にしても、自分一人蚊帳の外の状態は好ましくない。
何が起きているのか問いただそうとした時、通信回線越しに破裂音と破戒音、そしてディーノのものと思われる異国の言葉が雲雀の耳をついた。
「ボス!どうした!?」
すぐ近くにいたロマーリオにも聞こえたのだろう。雲雀の手から携帯を取り戻し送話口に向かって叫ぶが、携帯は沈黙してしまってるようだ。
「ボス!?」
「ボスはどうした!?」
「まさかアイツらに!?」
途端ざわめき出す男達。
「ねえ、何なのさっきから」
トンファーを閃かせ、雲雀はロマーリオに対峙する。
「僕の並盛で勝手な事しないでくれるかな」
ロマーリオは何とかそれらしい事柄を伝えて目の前の少年を宥めようとしたが、怒った雲雀にそんな小手先のワザは効かない。
「アレだ」
諦めたように溜息を吐いたロマーリオが指差したのは、空高く飛ぶ飛行物。
「ヘリ……?」
「大雑把に言っちまえば、キャバッローネの敵対組織が日本まで追っかけて来たってトコだ」
「あの人、狙われてるの?」
「ああ。さっきのは銃を発砲した音だな。そんで何かぶっ壊れたんだろう」
「あの人どこにいるの?」
「それを知ってどうする」
「どうするもこうするも、この町は僕の町だ。僕に黙ってこの町でおかしな事をする奴らは咬み殺す。相手が君達でもあの人でも、ね」
「車の用意が出来たぜ、ロマーリオ!」
雲雀とロマーリオの間の空気を破ったのは別の部下の叫び声だった。
途端にワラワラと動き出す黒服達。
「分かった。説明してやるからお前さんも一緒に乗っていけ」
「いらない。僕は僕のやり方でやる。あのヘリを追えば、そこにあの人がいるんだろ」
雲雀は踵を返すと愛車目掛けて走り去った。