リクエストSS

□Chase!
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表の顔はいくつかの企業の社長兼トレーダー。裏の顔は五千の部下を従える大ファミリーのボス。
表・裏問わず、仕事では危険な目にあった事もある。
マフィア間の抗争では命を落としかけた事も一度や二度ではない。

それがディーノについての基本情報として教えられた簡潔な説明。
けれど雲雀にはいつまで経ってもそんな風には見えない。

あの赤ん坊との関係を見ても確かにマフィアなんだろう。実際怪我をしている姿だって見た事がある。
けれど当の本人はそれでもヘラヘラと緊張感の無い顔で笑っていたし、ホテルの机に山と積まれた書類に向かう姿だって偉そうには見えない。
来日するや否や並中の応接室に直行し、一通り雲雀を抱き締めて堪能すると手を引いてホテルに連れ帰る。

「恭弥と離れたくない」

と拗ねるディーノのお陰で彼の滞在中雲雀はホテルから登校し、ホテルに帰る羽目になる。
滞在最後の夜は朝まで寝かせてもらえず、翌朝は名残惜しげに別れの挨拶。
それが雲雀の知るディーノだ。







そんなディーノの様子がおかしい。

「目障りな群れだな」

応接室の窓から見える校門。目立たぬように配置された黒服の男達。
風紀委員達の調べによると同様の男達が裏門を始め学校周辺の要所要所に立っているらしい。
雲雀は携帯を取り出し、この数時間だけで何度も目を通したメールを再び表示させる。

『急な用事が入って今日明日は会えねーんだ。ゴメンな!』

軽いノリのディーノからのメール。それだけなら何らおかしい事はない。
けれど、昼過ぎにこのメールが届いたのと時を同じくして黒服の男達が群れを成し現れた事実は、雲雀の機嫌を損ねるのに十分だった。
黒服の男達の中には見覚えのある顔がちらほら見受けられる。きっとディーノの部下なのだろう。
と言う事は、彼らの行動はディーノの指示に寄るものだ。

(何コソコソしてるんだか)

今思うと、朝、雲雀がホテルの部屋を出る時から様子がおかしかった。





学校へ送り出すだけの事に必要以上の時間をかけて別れを惜しむ。
ぎゅうぎゅうと抱き締められるのが苦しくなってトンファーを振るった。
床に蹲ったディーノは涙目で雲雀を見上げ、軽い文句を言う。
そこまではいつもと何ら変わらない。

何かが変わったとするならば、その直後に着信があったディーノの携帯。

聞いたことの無い着信音。
一瞬で真剣な顔になったディーノ。
彼の口から聞こえるのは異国の言葉。

「わり、仕事の電話。ゴメンな」

そう言って優しく笑う顔はいつものそれと変わらなかったけれど、纏う空気はさっきまでとは確実に違う物になっていた。





「今日はもう帰る。後の事は頼むよ」

腹心の部下に声を掛け、雲雀は上着を翻し応接室を出て行った。

「キョウヤ、もう帰るのか」

学校の裏手に止めたバイクの側に立っている男が目ざとく雲雀を見つけて声を掛けてよこす。

「すまないが今日のボスは忙しいんだ」

「知ってる。だから家に帰るつもりだよ。どいて」

「おう、気をつけてな」

男は疑う様子もなく、アクセルをふかしバイクを発進させる雲雀を見送り手を振った。

駅前には大きなショッピングモールがあり人出は多い。
学校や病院等公共建築物付近は平日休日問わずバス路線が充実し、並盛町内外の人々の足となっている。
一方で民家の立ち並ぶ住宅街は細い路地も多く、車両進入禁止の道も少なくは無い。

そんな並盛町の所々で見かける黒服の男達。

(何なんだ)

例えディーノの部下と言っても自分や並盛とは何の関係も無い筈だ。
そんな彼らが自分に許可なく、まるで何かに警戒するかのように町中に散らばっているのが気に入らない。

いくら五千人の部下がいるとはいっても全数が来日について来ている訳では無いし、ディーノの周辺を無人にする筈も無い。
町中に割り当てられた人員の目をかいくぐり、彼らの知らない路地裏を通り抜けた雲雀は、ディーノの宿泊するホテルの正面を見る事の出来る小さな駐輪場まで辿り着いた。

正面玄関からはひっきりなしに黒服達が出入りしている。
いつもののんびりした空気ではない事から、何事かが起きたのだろうと推測される。
そして彼らが動く第一の目的は彼らのボス―ディーノの為だと言う事も雲雀は知っている。

いつもならホテルの地下駐車場までバイクで乗り入れるところだが、この様子ではあっさり通してくれそうもない。
力づくで全員を殴り倒しディーノのいるフロアへ行くのも難しくはないが、いつもとは違う空気が気に掛かる。

雲雀は駐輪場にバイクを止め、堂々とホテルの正面玄関に向かった。
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