リクエストSS

□番う
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「ボース、いつまでも落ち込んでないでとっとと仕事終わらせてくれ」

「おー」

部下の声に返事を返すもディーノにいつもの元気はない。

雲雀にプロポーズをしてあっさりと断られてから早三ヶ月。
その間雲雀とは一度も会っていない。
今までも仕事のお陰で数ヶ月単位で顔を合わせなかった事もあったが、今回は単にディーノが逃げているだけだ。

「一度や二度断られたくらいで落ち込むなんて、アンタらしくねえ。昔なんざ二言目には『嫌だ』って言われてただろうが」

「そうなんだけどさ」

十年前、恋人になるまでの苦労だって並大抵のものではなかった。
捕まえて、話をして、何度も気持ちを告げて、そして長い時間をかけて少しずつ雲雀の心に寄り添っていった。

その間、何度拒絶されても諦めなかった。
嫌われていないのは分かっていたから。

けれど今回は。

「長年付き合った挙句に『否』はきっついぜ……」

「じゃあ諦めてどっかの娘と所帯を持つか」

「まさか。俺諦め悪いんだ」

とりあえず仕事モードに無理矢理気持ちを切り替えて書類に向かった時、控えめなノックと共に扉が開いた。

「きょ……!」

そこには、この三ヶ月間ディーノの心を占めていた人物がいつもの仏頂面で立っていた。

「恭弥!来るなら来るって連絡よこせよ!そしたら仕事終わらせて待ってたのに!」

「仕事しながらでいいよ。沢田の命令で来ただけだから」

雲雀は胸ポケットから一枚の封書を取り出すと執務机の上に滑らせた。
ボンゴレの紋章と沢田綱吉直筆の署名。
封を切り上質な手紙を取り出すと、重厚な威圧感に満ちた表書きとは打って変わった軽い言葉で軽い内容が綴られている。

「ボンゴレからは何て?」

頭を掻き机に突っ伏すディーノは、不安げなロマーリオに手紙を差し出す。
緊張の面持ちで読み進めていたロマーリオは次第にいつもの調子を取り戻し

「茶でも淹れてくる」

と部屋から出て行ってしまった。

「これ持ってけって言われたのか?」

「そうだよ。わざわざ人を呼びつけて正式に『命令』なんて言葉を使われたら断れない」

『不本意』と大書きされた顔で雲雀は眉を寄せる。

「内容知ってるか?」

「ボスが他ファミリーのボスに宛てた親書の内容なんて誰が知るって言うんだ」

「だな」

そこには、ここ数ヶ月の雲雀の不機嫌具合と、そのせいでもたらされた被害状況が事務的に並べられ

『原因はディーノさんに違いないだろうから、こちらの平穏の為にもちゃんと話し合って下さい』

との泣き言で締められていた。

(すまん……ツナ……)

「あー、悪かったな」

「何が」

「わざわざ手間かけて持って来てもらってさ」

「何だ。てっきりこの間の戯言についての詫びかと思ったよ」

一瞬ディーノは雲雀が何を言っているのか分からなかった。そしてすぐ、三ヶ月前のプロポーズについて言っているのだと思い至り、全身に血が巡る。

「戯言って何だよ……俺は本気で」

「本気で何。まさか男同士で本当に結婚出来るなんて思ってるんじゃないだろうね」

「俺が言ってるのはそんな形式的な事じゃねえよ」

書類上の婚姻なんて望んでいない。
望むのは、時に寄り添い時に離れ、互いの目指す未来への道のりを共に歩む事。
どんなに険しい道でも、例え望む時にそこにいてくれなくても、心が寄り添ってくれるならそれは共に在ることと同じだ。
そうやって生涯を歩んで、そして死んでいきたい。

「今とどう違うのか分からない」

訥々と心情を述べるディーノの言葉を黙って聞いていた雲雀だったが、一通り聞き終えると小さな溜息と共に言葉を吐き出した。

それは確かにそうなのだ。
今だって互いの立場を含め、生半可な気持ちで接している訳ではない。
ディーノの語ることはその延長に自然と在る未来であり、それ以上でも以下でもなく、すなわち二人にとって特別な事ではない。

「けど」

ディーノが言い募ろうとした時、扉が激しく叩かれた。

「ボス!コルヴォの残党がシマに火を付けやがった!」

「何だと!?」

乾燥して乾いた風のせいで火の回りは恐らく速い。一刻も早くその場に駆けつけるべく扉に手をかけて、そこでディーノは恋人の存在を思い出した。

「恭弥」

「何してるの」

自分に声を掛けようとするディーノを雲雀は一蹴する。

「あなたが今すべき事は一つだろ」

「ああ、わりぃな」

「行っておいで」

「おう」

力強く笑んで駆け出すディーノを見送り、雲雀は満足気に瞳を細めた。
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