Novels 2
□Famiglia
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11月22日のゴロ合わせで制定された『いい夫婦の日』にちなんでか、TVの中では数組の夫婦がインタビューに答えている。
『夫婦円満の秘訣は何でも言い合う事です。適度な喧嘩は仲を活性化させますし、相互理解にも繋がってそれまで以上に仲良くなれるんですよ』
にっこり笑ってそう答える女性の言葉に、TVを見ている子供二人は深く頷いた。
「やっぱそうだよな。うちんとこも喧嘩の後はいつも以上に仲いいし」
「大きな喧嘩程仲よしの具合も大きいよね」
ディーノときょうやが揃って顔を向けたのは、隣室を隔てる壁。
決して薄い作りではない筈だが、さっきから壁を通して隣室の惨状がこれでもかと聞こえて来ていた。
「あなたはまた僕の知らないところで勝手に動いたね。そっちと業務提携したあの企業は風紀財団が狙ってたのに」
「こっちだってそんな話初耳だぞ。お前んところに何のメリットがあんだよ」
「社長が指輪の取引に顔が利くんだ。便宜を図ってもらおうと水面下で接触してたところだったのに、そっちとの提携で多忙になったせいで時間を割いてもらえなくなった」
「色仕掛けすんなっていつも言ってんだろ!」
「誰がいつしたって」
「お前の場合、笑って隣に座るだけで相手に取っちゃ十分色仕掛けになんだよ!ランクの高い指輪なら俺んとこで融通してんじゃねえか!」
「おかしな事言わないで。それならあなたのしてる事はまんま色仕掛けじゃないか。先月、新興企業の女性社長を誑かして取引成立させたの知ってるよ」
「誰が誑かした。仕事の話しながらメシ食っただけだろーが」
「にっこり笑って美辞麗句重ねて、帰りには手にキスまでしてみせたらしいじゃないか。居合わせた財団職員が一部始終を見てたよ」
「そんなもん普通だろ。相手褒めていい気分にさせてから仕事の話に入るのなんて基本だし、手へのキスなんて挨拶だ。それ以上の意味なんてねーよ」
こんな風に仕事やその方法を巡って、二人の両親はすぐに喧嘩をする。
今は口だけで済んでいるようだが、ひどい時には互いが得意とする武器が飛び交う事だってある。
だが喧嘩は次第に勢いをなくし、勃発時同様突然収束したりもするのだ。
筒抜けだった声は、今はもう時折りぼそぼそ聞こえるだけに落ち着いていた。
「終わったみてーだな」
「今頃きっと仲直りしてるよ」
二人頷き合って再びTVに顔を向けると、画面の中にはいかにも仲よさそうに手を繋いだり、腕を組んだりする夫婦達。
『喧嘩する程仲がいいとも言いますしね。口論する事でお互い今まで以上に深く理解出来るんです。それは継続的な夫婦生活にも繋がります』
「でもさ、この人達よりうちの方がぜってー仲いいよな」
「うん」
両親はこんな風に人前でベタベタする事はまずないが、家の中では常に寄り添い、子供達が見ていようがいまいがキスをする事だって珍しくない。
そんな時、いつもにこやかな父親はいつも以上に甘ったるい笑顔を浮かべるし、いつもはあまり感情を外に出さない母親も嬉しげに目を細めて父を見つめたものだ。
それは、普段がどうあれ、二人共お互いが大好きなのだと分かる瞬間だった。
「TVもいいけど宿題は終わったの」
丁度番組が終わった頃、両親が連れ立ってリビングに姿を現した。
「明日休みなんだからいいじゃねーか」
「あなたは子供達に甘すぎるよ」
「お前が厳しすぎるんだって」
再度始まった小さな言い合い。
けれど父親は溶けた砂糖菓子みたいな甘ったるい笑顔を振り撒いているし、顔を薄く上気させた母親は睨む瞳にいつもの険しさがない。
それが仲直りした後特有のものだと知っている子供達は、幾度目かの口論にも微笑ましい目を向ける。
二人は父親も母親も大好きだ。
大好きな両親がこれからもずっと仲よくしていてくれるなら、家屋を半壊する事もある喧嘩だってしてもいい。
喧嘩が大きければ大きい程、その後の仲睦まじさの規模も増大するのだから。
両親が仲よしで。
家族全員が仲よしで。
仲よしのまま、ずっとずっと。
ずっと一緒。
それはとても、幸せな事。
2012.11.20