Novels 3

□nastro
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「はい、これ」

と、ピンク色のリボンを鼻先に突き付けられてどうしろというのか。本気で分からなくて小首を傾げたまま1分程経った頃、雲雀は

「ああ、結ぶんだった」

と小さな声で呟いた。その直後、

「いてててて!締まる!落ちる!やめろーっ!」

「おとなしく首差し出しなよ。結べないだろ。抵抗するな」

「抵抗するわ!何でむざむざ首締められてなきゃなんねーんだよ!離れろ!はずせ!」

ディーノがほうほうのていで危険な凶器から逃げ出すと、雲雀は憮然とした顔で睨み付けていた。
ディーノを、ではなく、ディーノの斜め後ろに控えているロマーリオを、だ。

「話が違う。こうすればこのひと喜ぶんじゃなかったの」

「絞殺されかけて喜ぶ性癖なんぞ俺にはねーわ。どんなドMでも命かかってりゃ全力で抵抗すんだろ。つか、ロマ。何。どゆこと」

「あのな恭弥。もっかいカンペ見直せ。お前さんの首にリボン巻いて『誕生日おめでとうディーノ』。そういう話だったろ」

これ以上ないほど不本意そうな顔でポケットに手を突っ込む雲雀からディーノは1枚の用紙を引ったくった。
用紙の上半分にはロマーリオの発言とほぼほぼ同義の文言が並んでいたが、ディーノのこめかみがひくりと反応したのは『その代わり』から始まる後半部分だ。

「恭弥、てめえ、人の誕生日祝いと引き換えにウチ負担で新品の応接セット買わせようとしてんじゃねえよ」

「並中は公立だからあまり予算が下りないんだ。新年度が始まる前にこのシリーズで揃えておいて。色番間違えないでね」

「待ってくれ恭弥。まだ契約は履行されてないぞ。ボスの誕生日祝ってやってくれ。さっきの絞殺未遂はノーカンだからな」

「もう面倒くさいんだけど」

「棒読みでいいからこの文言読み上げてやってくれや」

情けなさしかない2人の会話に頭を抱えながら、ディーノはいまだ雲雀が握りしめている紐状の凶器、もとい、ラッピング用と思しきリボンを取り上げた。

「ほら来い恭弥。お前がプレゼントなんだろ」

「違うよ。リボンつけるだけだ」

「だからそれがそういう意味なんだっての。首に巻いてやるからこっち来い」

「苦しいから嫌だ」

「俺を好き放題苦しめておいてよくそういうことが言えんなお前は。んじゃ、髪、ほら」

不満げな表情はシカトして雲雀の髪にリボンを結ぼうとするものの、生地のせいか髪質のせいかはたまたディーノの不器用さによるものか、つるつる滑って一向に結べない。

「もういい」

何度目かのチャレンジの後、焦れてすっかりへの字口になった雲雀にリボンを奪われた。咄嗟に首周りを保護したけれど、思いがけず雲雀の手は頭部に向かった。

「やっぱりこっちのがいいよ」

ディーノの顔の横で跳ねる髪の先にピンク色のリボンが揺れている。

「この色はあなたの金髪によく似合うよ」

眇められた黒い瞳と、微かに綻ぶ小さな口元。威嚇でも剣呑でもない、雲雀の素の笑顔だ。

「あー……サンキュ」

めったに見られない表情に、迂闊にも顔が熱くなる。
嬉しいと、軽率にそう思ってしまう心を我ながら安いと思わないでもないけれど、口元を覆っていないと締まりのないニヤケ顔になってしまう事実はもうどうしようもない。
惚れた弱みとは、まさにこういうことだ。

「じゃあそういうことで、欲しい応接セットはこれなんだ」

ディーノの礼を受けて契約が滞りなく履行されたと判断したらしい雲雀がカタログを手ににじり寄る。完全に意識はカタログに向いているらしく、腕の中に囲い込んでもおとなしいものだ。

いろいろ言いたいことは多々あるが、上司思いの部下がそばにいる。
可愛い恋人が腕の中にいる。
平凡かつ平穏な時間。
こんな誕生日プレゼントも悪くないかもしれない。



2019.02.04


 

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