Novels 1
□お年玉
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「お年玉」
「年始の挨拶もしない悪い子にはあげません」
「……あけましておめでとう」
「おー、おめでとう」
「よこしなよ」
「ほれ」
渡されたポチ袋を開けると中には、外観の美麗さを裏切るほど汚い字の書かれた紙切れと、和紙で覆われた小さな包み。
「何これ」
「ヒバードにもお年玉やらないと不公平だろ」
「じゃなくて、紙切れ」
少量の鳥の餌を和紙で包んだ塊は風流で粋だった。
それはいい。
けれど雲雀宛と思われる紙切れには『戦える券』とだけ記載されている。
実は何となく分かってはいるが、あまりにも人を子供扱いしていないか。
「世界にたった一つしかないお年玉だ。それがあれば本気の俺と戦えるぞ」
本気、と言う部分を殊更強調させてディーノは雲雀の瞳を覗き込んで来た。
蜂蜜色の瞳に映る自分の真っ黒な瞳が、喜色を帯びて輝いているのが見える。
「いつでも使えるの」
「ああ」
「今すぐでも?」
「いいぜ。でもそれは一枚しかないからな」
いつどこで使うかは雲雀次第。
子供が両親に肩叩き券を贈るのと全く同じ意味合いだろうが、雲雀にとってその貴重さは比べ物にならない。
ディーノが本気を出す事なんて、まずないのだから。
いますぐ権利を履行しようか。
この人が日本にいられる時間はそう長くないし、来ない時は数ヶ月間も間があく事だって珍しくない。
タイミングを逃して使えなかった、なんて事にでもなったら目も当てられない。
新しい年の始まりに本気のこの人を咬み殺せば、きっとひどく気分がいいに違いない。
「考えておくよ」
けれど結局雲雀はそれを胸ポケットにしまいこんだ。
「あれ。使わねーの?」
ディーノとしても意外だったようで、鳶色の瞳を丸くする。
戦闘好きな仔猫は、てっきり喰らいついてくるかと思ったのに。
「すぐに使うのは、がっついてるみたいで味気ない」
「当てこすられてる気がすっけど」
「さあ、どうだろう。利用期限は?」
「特になし」
「来年でも、再来年でも?」
「いいぜ。欲しいなら毎年一枚ずつやるし」
「じゃあ、十枚溜まった時に使おうかな」
「十年後のお前とのガチバトルは、俺的にやべーけどな……」
「そう。なら十年後に十枚分。約束」
「おう」
物騒な新春の約束。
けれどそれは、この先十年側にいる事への約束。
「恭弥、今年もよろしく」
こつん、と額を合わせて覗き込んでくる蜂蜜色。
少しだけ頭を反らして、雲雀もディーノの額に自分のそれを合わせた。
がつんと音がして蜂蜜色が見る間に潤んだけど、どうでもいい。
「うん」
今年こそ、咬み殺す。
言葉にする前に唇が塞がれたから、物騒な言葉は雲雀の胸の内に留められる事になった。
2012.01.02