Novels 1

□Una notte sacra
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華美にならない程度に飾り立てたクリスマスツリー。
綺麗なペーパーやリボンで包まれた沢山のプレゼント。
それらと共に遠いイタリアから極東の地へ文字通り飛んで来たディーノは、上機嫌この上ない表情で雲雀を離そうとしない。

「いい加減離してくれる」

「やだね」

不機嫌そうな口調にこたえもせず、ディーノは腕の中に囲い込んだ身体をぎゅうぎゅうと抱き締めては、時折り旋毛や頬にキスを落とす。
どれだけ文句を言ってみせても離してくれないディーノに、雲雀は最近覚えた諦念を込めて小さく溜息をついた。

雲雀の生活には、祝日もクリスマスも関係ない。
いつもより多い群れを咬み殺し町内の風紀を正した。
その後いつも通り学校に向かおうとするところをディーノに捕獲され、ホテルに連れて来られた。

「メリークリスマス!Buon Natale!」

とても一人分とは思えない程大量のプレゼントを差し出され、唖然としている内に抱き込まれ、そして今に至る。

今回もいつもの来日同様、部下達も同行していると言う事は、部下達はディーノが日本でクリスマスを過ごす事に異論は無いと言う事。
雲雀としても特に嫌だと言う程ではないので、それならそれで構わない。
けれどこの体勢からはそろそろ解放してもらいたい。

「あなたが拘束するせいでお菓子も食べられないしプレゼントも開けられない。どかないと咬み殺すよ」

睨みつけると渋々といった表情のディーノがようやく腕の力を抜いてくれたが、決して離れてくれた訳ではない。

「久しぶりに会ったのに、恭弥は俺よりもお菓子の方がいいのかよ。冷てーの」

「馬鹿じゃないの」

自分で持って来た菓子に嫉妬する男を切り捨てて、雲雀は自由になった手でプレゼントの1つに挟み込まれたカードを開封する。
日本語と異なり流麗な筆跡で書かれたそれは、おそらくイタリア語。読めないし意味も知らないが、クリスマス絡みの文句なのだろう。
異国の言葉をのせたシンプルなカードが、何故だかとても綺麗に見えた。

「恭弥。俺にも」

視界が陰った。
と、思った時には唇同士が合わされて、雲雀が口内に放り込んだばかりのパネトーネの欠片が奪い取られてしまう。

「僕のだ。返せ」

「色気ねーな」

ただ単に菓子を盗られた事に腹を立てる子供に苦笑して、ディーノは別の欠片を雲雀の口内に放り込んでやる。
今度はディーノに盗られないように急いで咀嚼する姿が可愛くて思わず抱き寄せると、警戒したように睨まれた。

「盗らねーよ」

髪や頬を撫でるだけに留めると安心したのか、雲雀は大人しくディーノの腕の中で口を動かす。
恋人同士の触れ合いと言うより、野生動物の餌付けに近いが、それすらもディーノにだけ許された特権。

「食ってすぐ寝たら消化にわりーぞ」

菓子を食べ終わり胃が満たされたのか、雲雀は目を細めてうとうとし始めた。
食欲の次は睡眠欲と、どんな時でも本能に忠実な少年だが、子供扱いされるのは嫌いらしい。

「眠くない」

一つ伸びをして目を擦る仕草は子供らしくて微笑ましいが、それを言うと怒るだろう事が分かっているので、ディーノは丸い頭を撫でるだけで我慢する。
けれど、久しぶりに会った恋人に触れる事への我慢は難しくて。

「俺もプレゼント欲しい」

「そんな物、僕が用意してると思ってるの」

「物なんていらねー。恭弥が欲しい。俺にとっては恭弥が一番のプレゼント。頂戴」

「あげないよ。僕は僕のものだ」

「んー、じゃあ俺をやるよ。俺がお前のものになってやる」

「いらない」

「ひでぇ」

「一方的に与えられるものなんて、いらない。欲しい物があれば自分で手に入れる」

覆い被さるディーノを押し返す手を取り、ディーノは自分の手と絡めた。

子供の手。
自分の手よりも一回り小さな手。

この手はきっと、掴みたいと強く願ったものがすり抜けて行った事も、離さないと誓ったものを取り上げられた事も、まだないのだろう。
自分の正義と強さを疑う事を知らない瞳は綺麗で幼くて、それだけに残酷だ。
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