Novels 1

□手慰み
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ソファー下の床に胡坐で座り込み膝にノートパソコンを乗せて作業していたディーノの頭を、ぽすりと軽い衝撃が襲った。

(あ、始まった)

頭を動かさないように、慎重に視線だけで斜め後ろを伺う。
ディーノが背もたれ代わりにしている長ソファーの上には、仰向けになって本を読んでいる雲雀の姿。
背もたれに片方の肘を乗せその手で本を持つ姿勢は見ている分には腕が疲れそうだが、本人にはそれが楽なのだそうだ。
空いたもう片方の手は、腹の上に乗せたり頭の下に敷いたり色々行き場を変えていたようだが、今はどうやらディーノの頭の上に落ち着いたらしい。

間を置かず動き出す、温かい掌。
髪を撫でたり、指に絡めたり、戯れに引っ張ってみたり。

雲雀がこの手の動きを取る時、大抵は本を読んでいたり、可愛がっている鳥をあやしていたり、ぼんやりとTVを見ていたり、要するにのんびりと寛いでいる時だ。
動き自体もごく小さなもので、髪を引っ張る動き一つ取っても痛みは無く、どちらかと言えば擽ったさと気持ち良さが同居している感覚だ。
何度か経験していると、これが雲雀の無意識の行動だと分かり、その度にディーノは雲雀の動きを邪魔しないように、のんびり寛ぐ子供の好きにさせてやっている。

髪を撫でる優しい動きは、やがてディーノに眠気をもたらし始めた。
知らず、うとうとして頭を動かしてしまったのだろう。

「いってぇ!」

激痛と言う程ではないが意識を覚醒させるには十分な痛みを覚えてディーノが振り向くと、本を放り出してディーノの髪を鷲掴む雲雀と目が合った。

「何すんだ、てめ」

それには答えず、雲雀は両手でディーノの髪を触り出す。
不機嫌そうな顔で髪に手を突っ込んでくしゃくしゃにかき回す様は、意外と楽しげに見えた。

(本に飽きたな、これは)

「朝起きるとあちこち跳ねてるのに、ちゃんとふわふわ落ち着くんだ。変なの」

「そういう髪質なの」

「犬みたい」

「るせ」

髪を触られるのは嫌いじゃないし、可愛い恋人に構ってもらえて嬉しくない筈が無い。

(どっちかっつーと、こいつのが構って欲しそうだけど)

ディーノは、ソファーから身を乗り出して両手を突き出している雲雀の脇下に手を差し入れ抱き上げると、自分の膝上に座らせた。
てっきり暴れ出すかと思ったが、大きな腕に雲雀は大人しく抱かれている。
雲雀は暫しディーノの様子を伺うと、再び金髪をかき回したり引っ張ったりと好き放題した挙句

「交代」

そういい残して突然横になってしまった。

「あ?」

「今度はあなたの番」

デニムの膝に丸い頭を乗せ、上目遣いで鼻の頭に皺を寄せる。
この体勢は、俗に言う膝枕。

交代。
ディーノの番。

と言うのは、つまり。

(撫でろって事か)

大きな掌を黒髪に滑らせると、髪と同じ色合いの瞳が気持ち良さそうに細められた。

(俺が犬なら、こいつはぜってー猫だ)

正に猫の毛並みの様に艶やかな黒髪は、撫でていてとても気持ちが良い。
さらさらとした手触りに誘われる様に指を差し入れ、梳き、雲雀がしていた様に指に絡ませていると、細められた瞳は次第に瞼に覆われ、やがて完全に隠れてしまった。

「恭弥?」

返事の代わりに聞こえるのは、可愛らしい寝息。

「ひでー。俺動けねぇじゃん」

雲雀を座らせた時にどかしたパソコンを片手で操作し電源を落とす。
フードのついた軽い上着をかけてやると、ディーノよりも小柄で細身の身体はそれにすっぽりと覆われた。

一緒になって昼寝するのも悪くないが、少しでも動こうものなら雲雀はすぐに目を覚ましてしまうだろう。

「勿体ねぇ」

惜しげもなく晒してくれるようになった寝顔。
堪能出来る折角の機会を、わざわざふいにする事もない。

「おやすみ」

ディーノは止まっていた手の動きを再開させ、雲雀の寝顔と艶やかな髪の手触り両方を余す所なく堪能した。





2011.09.08(2011.12.10 UP)
 

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