Novels 1
□痴話喧嘩は鳥も食わない
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早い時で数週間、長ければ数ヶ月のスパンを経て日本へやって来る時、ディーノは決まって大量の手土産を携えて来る。
年下の恋人の為に選んだ茶菓子類が主な物品だが、その贈答先は必ずしも恋人だけではないようで。
「またこんなに持って来たの」
どれだけ呆れた顔を見せられてもディーノはめげない。味を気に入ってくれている雲雀は、何だかんだ言っても、提供された飲食物は全て受け取ってくれると知っているのだから。
案の定、菓子を盛られた器を目の前に差し出されると、一見無表情に、けれどディーノには判別の付く嬉しそうな顔をしてそれを口元に運び始めた。
けれどそれは、雲雀個人に限っての事で。
「その子にはあげないでって言ってるだろ」
ディーノと雲雀、二人の間に置かれた大皿の上の菓子。
ディーノが摘んだそれの行き先は自分の口ではなく、テーブルの上で小さな嘴を目一杯開けて餌付けを待つ黄色い鳥の元だった。
「だってこいつ、目キラキラさせて超食いたがってんじゃん」
「あなたが来る度にいつも沢山おやつ食べさせるから、こんなにコロコロになっちゃったんじゃないか。少し控えてよ」
「いや、初めて会った時からこいつ、こんなだったぞ。それに、ちょっとくらいならいいじゃねーか」
「イタリアのお菓子は日本のものよりカロリーが高いから駄目だよ。この子の事は僕が面倒見てるんだから、あなたは口も手も出すな」
雲雀はテーブル上のヒバードを鷲掴み自分の膝の上に移動させたが、すぐにディーノの大きな手に取り上げられた。
「いつも低カロリーな鳥餌ばっかり食わせてんだろ。だったら、俺が来た時くらい甘いもん食わせてやろうぜ」
「こういうのは普段からの変わらない健康管理が大事なんだ。甘くて美味しいものはすぐに覚えて癖になるから、むやみやたらと与えないで」
「……それ、お菓子の話?」
「他に何があるの」
「や、別に。気持ち良い事すぐ覚えて癖になってるお前が超可愛いとか思ってる訳じゃねーから」
「死にたいの」
「ベッドの中でお前にしたい事やして欲しい事山程あるから、まだ死にたくねぇ」
「今すぐ咬み殺してあげてもいいんだよ」
軽い口論から痴話喧嘩の様相を呈した言い合いは、どさりと物が落下する音で中断される事になる。
「うわ!誰も箱の中に身体ごと突っ込んで食っていいなんて言ってねぇぞ!」
「全くもう、そんなに必死にならなくたっていいだろ。分かったよ。少しなら食べていいから、箱から出ておいで」
テーブルから落下して床に落ちたのは、まだ十分に中身の残る菓子の箱。
の中に入り込んだヒバード。
「お前が厳し過ぎるからこいつが極端な事しでかすんだぞ」
「そもそもあなたがお菓子なんか持ち込むのがいけないんだ」
割れたビスケットの粉まみれの鳥を二人して身奇麗にしてやりながらも、二人の舌戦はエスカレートしていった。
そんな二人の遣り取りを垣間見る事のあるそれぞれの部下達が、その様子を
「まるで子供の教育方針を巡って口論する夫婦そのもの」
と評している事を、二人はまだ知らない。
2011.11.20