Novels 1
□Sweets Time
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重厚なテーブル上にセットされた茶菓子もそれらに使用されている茶器類も、高級なものだという事は分かる。
鬱陶しいと感じる一歩手前の頻度で隣室内の進捗状況を報告されるのだって、悪くはない。
待遇は概ね良いし、待たされている感はどうしたって拭えないが、いつものように昼寝でもしていればあっと言う間なのだろう。
けれど生憎今は睡魔がやって来ない。
上品な茶や菓子にも飽きたし、じっと座っている事自体が苦痛になって来た。
となれば、する事と言ったらただ一つ。
ソファから立ち上がり、雲雀はテーブルに放しておいた鳥と亀を一撫ですると隣室へと通じるドアを開けた。
勿論、ノックなど一切なしで。
執務室風に改装された部屋には、大きなデスクに向かいノートパソコンや大量の書類と格闘するディーノの姿。
茶菓子がテーブル上に据えられている構図自体は雲雀と変わらなかったが、そのチープさ加減は全く比べ物にならない。
「あー恭弥、悪ぃ。あともーちょっとで終わるから、いい子で待っててな」
申し訳なさそうに告げる言葉はくぐもっていて、うまく聞き取れない。
「あなた意外と安っぽいもの好きだよね」
「疲れてる時には分かりやすい甘さが一番だろ。普通に美味いし。お前も食う?」
ディーノの口元に咥えられた細長い菓子。
ビスケット地にチョコレートのかかったそれは、コンビニはおろか小さな個人商店にすら陳列されている定番商品。
「食べる」
「ほれ」
「それじゃない」
差し出されたパッケージをテーブルに放り、雲雀はモニターに向かうディーノに顔を近づけた。
「え?」
気付けば、ディーノの唇に挟まっていた菓子は雲雀の唇に場所を移していた。
限りなく短くなっていたそれを抜き取る際、ほんの少しだけ唇同士が触れ合ったような、そうでないような。
「な?な!?恭弥!?」
どうやら不意打ちに弱いらしいディーノが顔を真っ赤にさせて慌てふためく様は、表情ひとつ変えない雲雀とは対極で。
「あんまり甘くない」
チョコレートとビスケットの比率が、圧倒的にビスケットに偏っているせい、だけじゃない。
「待ちくたびれた。早く甘いもの食べさせて」
金糸を軽く引っ張りながら強請る言葉の真意がディーノに伝わらない筈がなくて。
「三十分待て!」
我に返った後、フルスピードで仕事の山に向かうディーノを横目で眺め、雲雀は壁際に置かれたソファに身を横たえる。
さっきまで座っていたソファより小さいけれど、何故だかこっちの方が気持ちよく眠れそうだった。
「眠い。僕が眠るまでに終わらなかったら、起きたらすぐ帰る」
「ぜってー帰さねぇ」
ビスケットやチョコレートなんかよりも甘い肌を味わう事が出来るのか。
努力虚しく、眠る仔猫を見守るだけになるのか。
全ての答えは三十分後。
2011.11.11