Novels 1
□頭脳戦Halloween?
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「恭弥!trick or ……ぶっ!」
「うるさい」
ディーノがハロウィンお約束の台詞を言い終わる前、と言うか応接室内に到達する前に顔面目掛けて投げ付けられた安っぽいビニール袋のせいで、うるさいイタリア人は入口付近で盛大に蹲る羽目になった。
「お菓子あげるから今すぐ帰れ」
「ひでぇ!」
「見て分からないの。今は風紀委員会定例会の真っ最中だ。邪魔だからそれ拾って出て行って」
「食いモン投げ付けちゃいけないんだぞ。罪のないお菓子に謝れ」
「あなたが詫びなよ。あなたにあげる為に買ったんだから」
「俺?」
ディーノの顔面にぶち当たり床に散らばったものは、オレンジと黒を基調としたパッケージの菓子類。
雲雀が自分の為に買ってくれた事自体は確かに嬉しい。
それは嬉しいが
「このビニール袋、有名な激安量販店の袋だよな」
「それが何」
「賞味期限間近って言う安売りシール付いてんだけど」
「切れてないんだからいいじゃないか」
「あのさ、恋人に贈るものはもーちょっとこう……別に高価な物じゃなくてもいいけど、今時コンビニにだってそれっぽいモン置いてあんだし」
「僕のセレクトに文句付ける気」
「や、だって、これはあんまりじゃねぇか?」
機嫌を損ねてしまったのか、ディーノは拗ねた表情でお菓子と共に床に座り込んでしまう。
ふう、と溜息をついた雲雀がおもむろにディーノの目の前にしゃがみ込んで視線を合わせると、鳶色の瞳がびっくりしたみたいに瞠られた。
「怒ったの」
「怒ってはいねーけど……」
「これ、気に入らなかった?」
「って言うか……」
「僕はあなたみたいなお金持ちじゃない。限られたお小遣いの中で1つでも沢山買ってあなたにプレゼントしたかったのに」
「……え?」
「賞味期限間近って言ってもハロウィンまではもつから、二人で一緒に食べればきっと美味しいと思ったのに」
「きょ、恭弥」
「僕はあなたがくれるものなら例え石ころでも嬉しいけど、あなたは違うんだね。悪かったよ、これは捨てておく」
「いやいや!嬉しいって!マジ嬉しい!」
「無理しなくていいよ。考えてみたらこんな安物のお菓子なんて、あなたの口に合わないよね」
「いや俺ジャンク好きだし!これだってぜってー美味しい!恭弥が俺の為に選んで買ってくれたんならそうに決まってる!」
「本当はカボチャのケーキやプリンも買ってあげたかったんだ。けど、お小遣い、もうなくて」
「そんなもん俺が用意してやるよ。今からホテル戻ってパティシエにすっげー美味しいの沢山作ってもらうから」
「本当?」
「ああ。お前が帰る頃は部屋中お菓子とケーキでいっぱいにしといてやる」
「ありがとう。楽しみにしてるよ」
「おう!じゃあ後でな!」
周囲に散乱した菓子類を掻き集め、ディーノは光り輝くような満面の笑みを浮かべて応接室を出ていった。
「邪魔者もいなくなったし、定例会を再開しようか」
固唾を呑んで二人の遣り取りを見守っていた委員達に向き直った雲雀は、たった今甘い言葉を吐いていたとは露程も思えぬいつも通りの冷ややかな口調で指示を出し始めた。
「あの菓子類を購入したのが我々だと言わなくていいんですか?」
定例会の後、副委員長の草壁が気まずそうに指示を仰ぐ。
量販店に見切り品を大量購入しに行ったのは並中風紀委員会の面々。
ハロウィンの時期に現れるだろうディーノを追い返す事が目的だった。
「喜んでるんだから必要ないよ。単純だよね」
ついでに言えば購入費は風紀委員会予算の予備費。
雲雀の懐はこれっぽっちも痛んでいないどころか、物品を選んですらいない。
「流石です、委員長」
本人は何もせず一言二言の台詞だけで機嫌をMAXまで直すのみならず、高級デザートまでせしめる風紀委員長の手腕に、草壁以下委員達は賞賛の視線でもって再びの忠誠を誓うのだった。
2011.10.22