Novels 1

□掌の中の宝物
1ページ/4ページ

只でさえ、誰かへの贈り物を選ぶと言う行為は頭を悩ませるものだ。それが、遠く離れた国に住まう歳の離れた同性の恋人の誕生日プレゼントなら尚の事。
加えるなら、その受け取り手は物欲が無いに等しく、稀に欲しいと思うものが見つかれば自分の力で手に入れてしまえる環境だと言う事が、尚更難易度を上げさせる。

イタリアでディーノが雲雀への誕生日プレゼントについてどれ程頭を悩ませていても、恒例のモーニングコールは欠かさない。
ほんの数分、けれど登校前の雲雀の貴重な時間を分けてもらえる大切な数分。
朝の挨拶に始まり、主にディーノが一方的に話し、愛の言葉で締めくくられる、それ。
けれどその日は、いつもの流れの中にイレギュラーが発生した。

『今度の来日、あなたの時間はどれだけ僕に使えるの?』

雲雀が言っているのは、雲雀の誕生日に合わせたディーノの来日の事。
日本でのGWに合わせ長く滞在したいのは山々だったが、イタリアでの仕事の兼ね合いもありディーノが日本にいられるのは五月五日の昼から翌日の夕方まで。それは雲雀に事前に伝えてある。

「全部お前のための時間だよ」

事実だった。
限られた時間だからこそ、誰にも邪魔されずに雲雀の誕生日を祝いたい。その為に、滞在日数を減らしてまで全ての仕事を片付けたのだから。
本当なら日付の変わる瞬間を共に過ごしたかったのだが、今回ばかりは仕方が無い。誕生日当日に、日本で祝えることが大事だ。

『じゃあ、日本に着いたらその足で会いに来てよ。誰にも邪魔されたくないけどあなたの立場上護衛は必要だろうから、一人だけなら部下を連れて来ても構わない。ただし、僕の目の届かないところに置いておいてね』

今まで、こんなにストレートに『会いに来て』などと言われた事があっただろうか。
感激のあまり言葉にならず、携帯片手にぶんぶんと頷くディーノの姿は当然雲雀に見える筈もなく

『聞いてるの』

と不機嫌そうに低めた声で文句を言われる事になったのだが、それは、それ。
かくしてディーノは、最愛の恋人に合うべく、数ヶ月ぶりに日本の地へ降り立つ事になる。






悩み抜いた末に用意したプレゼントはホテルへ向かう部下に託し、ディーノは身一つで雲雀に指定された並中屋上へと向かった。
抜けるような青空と明るい太陽が作る初夏の陽気。たまに吹き抜ける風が心地よい。
祝日とあって、校内には誰もおらず静まり返っている。きっと屋上で昼寝をしたら気持ちがいい事だろう。
呼びつけておいてよもや昼寝などしていないだろうが、自由気ままな雲雀の事、その可能性も無くは無い。
一抹の不安を胸に屋上へと続く重い扉を開けると、その不安は杞憂に終わった。

「遅い」

フェンスに寄りかかり不機嫌そうな視線をよこすのは、焦がれるほど会いたかった幼い恋人。

「わり、これでも車飛ばしてきたんだけどな」

ディーノは雲雀に近寄り、挨拶代わりのハグをする。少し背が伸びただろうか。

「会いたかった。恭弥、誕生日おめでとう」

「僕も会いたかったよ。あなたが全然会いに来ないから、欲求不満で仕方が無い……責任取ってよ」

熱い声で囁かれた思いがけない返答に舞い上がり、ディーノは細い身体を抱く腕に力を込めて顔を寄せる。
唇が触れ合うかと思われた時、ちゃきり、と言う音と共にディーノの顎の下に冷たい金属が突きつけられる感触があった。

「おい……こら……」

「早くあなたと戦いたくてウズウズしてたんだ。今日明日のあなたの時間、全部僕との戦いに使いなよ」

「いやいや、幾らなんでもそれはねーよ!その他諸々の誕生日のお約束事だって控えてんだし!つか、思わせぶりな事言うな!」

「うるさい」

ディーノの返事も聞かないうちに、素早く雲雀は手の中の獲物を一閃させる。顎を砕かれる寸前にかわして、ディーノは間合いを取った。

「ほら、早く獲物を構えなよ。少なくとも、日が暮れるまでは相手してもらうよ」

瞳を輝かせ心底嬉しそうな顔で向かってくる雲雀にディーノは、甘い予感が打ち砕かれた傷心と、それでも雲雀の嬉しそうな顔を見られた喜びを同時に抱え、鞭を構えた。
きっと雲雀は数日前の電話の時点で、この展開を狙っていたのだろう。部下の同行を許したのは、部下付きのディーノじゃないと戦闘相手として役に立たないから。

(一つ大人になってもじゃじゃ馬ぶりは健在か)

小さく笑い、ディーノは纏うオーラを瞬時に切り替えた。
ディーノが戦闘態勢に入ったのを知り、雲雀は凶悪な笑みを浮かべて自ら戦いの火蓋を切った。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ