Novels 1
□秋涼
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二学期の始業式が目前に迫った頃、並盛の外れにある小さな神社で行われる小さな祭礼。
規模は並盛神社のそれと比べるべくも無く、それに比例するかのように出店も客足もまばらだ。
咬み殺す程の群れが闊歩している訳でもなく、ショバ代を徴収するほどの実入りもなく、それは並中風紀委員会にとっては全く眼中にない祭りだった。
勿論、委員長である雲雀恭弥にとっても同様。
「閑散としてるって聞いてた割には、屋台の種類もあるもんだな」
「数が少ないだけで一通りは揃ってるよ」
並中風紀委員長はその『閑散としている』参道を、ディーノから少しだけ離れて歩いていた。
どこで聞き込んで来たのやら、この祭りの存在を知ったディーノに一緒に行こうと誘われたのが昨日の事。規模も小さく数も少ない屋台をひやかしながら歩くディーノはそれでも楽しそうで、雲雀は意外な気持ちでその姿を見つめていた。
「お祭り、好きなの?」
「おう」
「だったら並盛神社のお祭りに行けばよかったのに。規模も大きいし、何より花火が打ち上がる」
見た目も好みも派手なこの男なら、きっとそれを気に入るだろう。わざわざこんな地味な祭りに足を伸ばさなくてもいいだろうに。
ぼんやり考えていた雲雀の口元に、突然甘いものが突きつけられた。
反射で口を開いてそれを咥えたまま見上げると、嬉しそうに笑ったディーノと目が合った。
「だってそん時はお前、風紀委員の仕事で忙しくて遊べないだろ」
雲雀の口内に収まったのは、水飴を絡めた小さな果実。痛いほどの甘みが口中に広がる。
「賑やかな祭りもでっかい花火大会も、全部お前と一緒がいい」
半分自分の手元に残った果実を一息に口内に放り込み、ディーノは雲雀の手を握ってゆっくり歩き出した。
「ツナがここの祭りの事教えてくれてさ。夏休みの終わり間際じゃん?宿題に追われてる時期に遊びに行く奴らなんていないって言うから、だったら恭弥来てくれるかなって」
左手に絡められたディーノの大きな右手を、雲雀は解かない。
数歩先を歩くディーノの顔は、雲雀の位置からは見えなかった。
「来年は時間作れよなー。そんで一緒に花火見ようぜ」
聞こえて来る声は楽しそうで、それはいつもの彼の声だったけれど。
「ねえ」
「射的とかさ、きっと俺上手いぜ。欲しいモンあったらとってやるよ」
「ねえ」
「あ、金魚すくいは勘弁な。捕った後の事考えると大変だし……」
「明日、朝早いクセにこんな所で時間潰してていいの?」
雲雀の言葉を避けるように他愛も無い会話を続けるディーノを、雲雀は容赦なく遮った。
「明日、イタリアに帰るんでしょう」