Novels 2

□年月の先に
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今夜のディーノは珍しく激しかった。
いつもの労りや気遣いは何だったのかと思う程、その姿には余裕がなかった。
あまりの激しさに雲雀の口から喘ぎとも呻きともつかない声が漏れる度、切なげに眉を寄せ「ごめん」と謝るも、抽挿は勿論、肌を弄り印を刻む事をやめもしない。
だから雲雀は行為中、吹き荒れる嵐に翻弄される心地で、汗ばむ逞しい身体に縋り付くしか出来なかった。
お陰で行為後は中々呼吸も戻らず、おまけに身体の怠さも顕著で、身じろぎひとつ苦労するはめになったのだ。

「ごめんな。大丈夫か……?」

一連の行為を経てようやく冷静になったらしいディーノが、飼い主に叱られた犬のような顔で雲雀を気遣う。

「あなた、がっつき過ぎ」

「う……ごめん……」

「いきなり学校に来るし、そうかと思えばまだ仕事が残ってるのに拉致してホテルに連れ込むし。何なの」

悪天候を理由に、雲雀は手合わせひとつしてもらえなかった。
そのくせ、やれ会話だの食事だのスキンシップだのとディーノに拘束され、挙句足腰立たなくなるまで激しく抱かれたとあっては、文句のひとつも言いたくなる。
シーツに包まりブツブツと不平不満を呟いていたら、弱気ながらもディーノが反論を試みてきた。

「だってさ、会うの数ヶ月ぶりじゃん。ようやく顔見れて、触れられてさ、色々爆発しない訳ないのなんて、お前だって男だから分かんだろ」

ふん、と鼻を鳴らして雲雀は口を閉ざした。
分かるだろうと言われても、分からないものは分からないのだ。
年齢的なものか、性を知ってまだ日が浅いせいか、獣じみた性衝動というものを雲雀は知らない。欲に飢え苦しんだ事がないのだ。

ディーノとこういう関係になってから求めを拒んだ事はない。彼とのセックスは嫌いじゃないから。
でもそれよりも、全ての力を出し切って戦える手合わせの方が好きだ。
だからディーノの状態を理解出来ないし分からない。でもどんな事であっても、分からないなんて悔しくて言いたくない。
黙り込んだ雲雀の機嫌を取るように、ディーノは優しい手つきでシーツごと雲雀を抱き締めた。

「まあ、けど、まだ数ヶ月でよかったよ。これが一年会えないとかだったらお前をぶっ壊してたかもしれねえ。そう考えると天上の奴らは淡白だな」

「何の話」

「今日は七夕じゃん。引き裂かれた恋人達が年に一度会える日だろ」

「前から思ってたけど、あなたロマンチストだよね。七夕伝説なんて、恋愛にうつつを抜かして職務放棄した社会不適合者達が懲罰で配置転換の出向させられただけの話じゃないか」

「七夕伝説に誰もそんなリアリティは求めてねえよ」

口を開いたのが嬉しかったのか、ディーノは楽しそうに笑って一際強く雲雀を抱いた。
頬に当たる金髪が汗のせいで湿っている。首元から立ち上る香りからは仄かに汗の匂いがした。
人間の汗など気持ちのいいものではない筈なのに、ディーノに限ってはその嫌悪感はない。
肌に浮かぶ汗は、余裕をなくした事の表れだからだ。

「なあ。もし、もしもだけど。もし俺達も年に一度しか会っちゃ駄目って言われたらどうする?」

汗と熱と香りに包まれて、雲雀はぼんやりとディーノの言葉を聞いた。
セックスはともかく、行動の自由を一年間もの間、赤の他人に取り上げられるのは気に入らない。第一、誰が自分にそんな命令を下せると言うのか。

「僕はしたい事しかしない。誰の命令にも従わない。会う必要がないと思えば五年でも十年でも放置するし、必要だと思えば会いに行くだけだよ」

「イタリアは遠いぞ」

「ここは地上だよ。天の川のあちら側とこちら側じゃない。移動の手段なんて幾らでもある」

「……会いに来てくれんの?」

ちら、と見上げた先の顔もやっぱり犬の顔だった。
でもさっきまでの叱られてしょげている顔じゃなくて、じわじわと喜びが湧き上がっている、そんな顔。

「俺の織姫はカッコイイなー。俺めっちゃ幸せ者だ」

「どうして僕が女役なのさ。女顔で女装似合いそうなんだから、あなたが織姫やりなよ」

「どっちでもいいぜ。お前が会いに来てくれんなら幾らでも女装して機織ってやる」

「誰もそんな事頼んでない」

ディーノにしても自分にしても、本来の職務を放棄して恋愛にうつつを抜かすことはないと雲雀は分かっている。
特にディーノは抱えるものが多すぎる。そのしがらみゆえに、天上の恋人達に己の姿を重ねたのだろう。
彼は否定するだろうが、彼の優先順位的に自分は下位だと思っているし、そうあるべきだと雲雀は思う。
そんな彼が、そして自分が、全てのしがらみを一時忘れ、互いを一番だと求め与える夜が、たまにはあってもいいのかもしれない。
がっつかれるのは鬱陶しいけど、そんな彼の気持ちは嫌いじゃない。

(僕にも、分かる時が来るのかな)

狂おしい衝動を。
自由に会えないもどかしさを。
天上の恋人達が胸に抱く悲しみと、年に一度の幸せを。

抱き締められる胸元からとくとくと伝わる確かな鼓動。
立ち上る彼の香りと心地よい熱。
今分かるのは、これらを取り上げられたくないという事だけ。
でも今はそれで十分だと思えたから、雲雀はくあ、と欠伸をしてディーノの左胸に頭を乗せた。
出来なかった分、せめて夢の中では存分に手合わせを出来る事を願って。



2014.07.06

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