Novels 2

□Honey Battle
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その日の仕事を終えたディーノは大急ぎでリビングへ向かった。

「恭弥が来てるぜ」

部下にそう言われるまで雲雀が来てくれている事に気付かなかったのだ。
すぐに通達してくれたら超特急で仕事を終えて、一目散に会いに行ったのに。
そう悔やみながらリビングに到達したディーノを、雲雀は殊の外穏やかに迎えてくれた。

「お疲れ様。仕事終わったの」

「ああ。待たせてごめんな。つか、事付けしてくれりゃすぐ飛んできたのに」

「仕事の邪魔をしたくなかったんだ」

そう言うと雲雀はソファーから立ち上がり身を寄せてきた。

「今日の仕事はもう終わりだって聞いた。この後のあなたの時間を全部貰うつもりだから、仕事中くらい大人しくしてようと思って」

潤んだ漆黒の瞳と赤らんだ目元に胸を高鳴らせるも、気のせいだと言い聞かせてディーノは必死に冷静さを保つ。

「それにしても、お前が来てくれるなんて珍しいな。何か用事でもあったか?」

「あなたに会いたくなっただけだよ」

雲雀の答えは飛び上がらん程嬉しいのだが、一方で、どうしたのかとディーノは心配になる。
雲雀がディーノの宿泊するホテルへ自発的に来てくれる事は、悲しい事にまず、ない。
強引に連れ込むか、ハンバーグをちらつかせた上で土下座で頼み込むかの二択が殆どで、極々まれな自発的来訪は突然入ったバトルスイッチによる襲撃だ。

その襲撃時には、絶対にディーノの状況を考慮してくれる事はない。
仕事中だろうが食事中だろうがお構いなしで、嬉々としてトンファーを振るってくる。
まかり間違っても別室で大人しく待っている事などなかった。
しかもこんな殊勝な態度とセリフ、常の雲雀では有り得ない。

「何かあったのか?」

不安になって雲雀の顔を覗き込むと、見つめる瞳は一層潤み、目元と頬の赤みを増したようだった。

「恭弥?」

「屈んで」

「あ?」

「いいからすぐ。そして目を瞑ってよ」

ディーノは訳も分からぬまま雲雀と目線の合う位置まで屈み、目を瞑る。
まるでキスを待つような体勢に胸は勝手に高鳴るが、雲雀に限ってそんな筈はないと、淡い期待を懸命に打ち消した。
けれどそんなディーノの予想は王道方面に裏切られた。

唇に、そっと灯った小さな熱。柔らかい感触は雲雀の唇だった。
驚きに目を見開き、反射的に伸ばした手は、一足先に雲雀が抱きついてきたせいで目的を失った。

「あなたの時間、ちょうだい」

「お、おう、いいぜ。庭で手合わせでもするか?」

「それも魅力的だけど、今は誰にも邪魔されずこうしていたいな」

「きょ……」

腕の中で伸び上がった雲雀に唇を塞がれる。
まだ不慣れで初々しいキスだ。

「ねえ……ベッド行こうよ」

それでも、唇を触れ合わせたままそんな風に誘われて尚平然といられる程ディーノの理性は強固ではない。
常とは違う従順な態度を訝しく思わない訳ではないが、熱い身体を擦り寄せて切なげに瞳を潤ませる媚態にあっさり煽られた。
ディーノは雲雀を抱き上げ深い口付けを交わしながら、寝室へと続くドアを蹴り開けた。
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