Novels 2

□Chocolate Kiss
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晴れ渡る青空の下、寒風が時折吹き荒ぶ。
乾燥し冷えた空気は砂埃を纏い、肌を切りつけるような痛みを連れてくる。
典型的な冬の天気だ。

「あーほら、言わんこっちゃねえ。すっかり埃まみれになっちまって」

不機嫌そうな渋面で見上げる雲雀の頭をディーノがぽんぽん払うたび、砂埃や枯れ葉が舞う。

「手合わせならいつもの屋上でいいじゃねえか。何だってわざわざ並盛神社くんだりまで」

「学校はいつもにも増して群れがうるさい。今日の並盛町内で一番静かなのがここだよ」

「そりゃそうだろうけど」

ごく数人を除きあまり寄り付く人間のいない並中屋上は格好の告白場所なのか、バレンタインデーの今日は、朝から放課後までいつ見てもチョコレートを持つ生徒達が出入りしていた。
幾ら散らしてもきりがなく、かと言って校外にはそれこそバレンタインデーを理由に集う男女が増殖している。
雲雀としては狩っていいなら喜び勇んで飛び込むところだが、それは駄目だと全力でディーノに引き止められてしまった。

それなら、と出した交換条件が並盛神社での手合わせ。
普段でも人気がないのだから、バレンタインデーにわざわざやって来るもの好きなど皆無だ。
神社の裏手に広がる林の中で冬の気候などものともせず存分に暴れた結果、雲雀は僅差でディーノに負けてしまった。不機嫌なのはそのせいだ。

「いつまでもこんな所にいたら冷え切っちまう。もう満足したろ。身体も埃まみれだし、風呂入れてやっから来い」

かくして雲雀はディーノが宿泊しているホテルの部屋に連れ込まれた。
雲雀をバスルームに放り込み、ついでとばかりに自らも服を脱ぎ捨てて、ディーノはせっせと雲雀の世話を焼く。

「もうちょっと頭こっちに傾けろ」

「命令するな」

「洗いにくいんだよ。ほら」

強引に角度を変えさせ、ディーノは泡まみれの手で雲雀の髪を洗っていく。

「じっとしてろっつーの」

擽ったかったのか、耳の後ろを掻いた時雲雀は盛大に頭を振ってくれたから、綿飴みたいなふわふわの泡が容赦なくディーノの顔面を襲う。

「もういい。出る」

「待てコラ!まだ流してねえし身体だって洗ってねえ!」

「構わない」

「構え!」

暴れて逃げようとする雲雀を抑え付けて髪をすすぐも、これでもう終わりとばかりに出ていこうとするから、念の為にと持ち込んだ鞭で雲雀の上体をぐるぐる巻いて、ようやくディーノはスポンジを雲雀の身体に滑らせる事が出来た。
勿論その間も雲雀が大人しくしている筈がない。
常に逃げる隙を伺っては足で蹴りつけ湯をかける。
やっとの事で全ての工程が終了した時には、ディーノはぐったり疲れ切っていた。

「お前は野生動物か何かか。その辺の犬猫十匹まとめて洗う方がぜってーラクだぞ」

「うるさいな。いい加減あっち行って」

「まだ髪乾かしてないから駄目」

「自分でやる」

「いつもそう言って結局やらずに寝ちまうじゃん。髪濡れたままだと風邪ひくだろ。お前すぐこじらせるんだし」

厚手のタオルを乗せたら、雲雀はふるふる頭を振って落としてしまった。
問答無用で包み込んでもすぐに嫌がって暴れてしまう。
きりがなく、ディーノは雲雀の首根っこを捕まえると一瞬怯んだ隙に丸い頭を小脇に抱え、ガシガシと水分を拭き取っていった。
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