Novels 2

□不安−ディーノVer.−
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出会った瞬間恋に落ちて、知れば知るほど好きになった。
次第に慣れ、少しずつ心を寄せてくれるのを感じた時は、警戒心の強い野良猫が初めて手から餌を食べてくれた時の喜びなんか吹き飛ぶくらい嬉しかったのを覚えている。
気持ちに応えてくれた時の嬉しさはそれ以上で、大泣きした挙句鬱陶しげにポンポン背中を叩かれるという醜態を晒した訳だけど、みっともないとは思わなかった。
ただ驚いたのだ。人間は嬉しくてもこんなに泣けるのだと初めて知ったから。

初めて本気の恋をした少年は、初めての感情を沢山教えてくれた。
でもそれは、綺麗なものだけじゃなかった。





「髪まだ湿ってんな。ドライヤーかけるか?」

「もう眠いからいらない。朝には乾くよ」

「寝癖ついてもしらねーぞ」

「あなたのは寝癖なのか元々なのか分からないね」

「俺のはこういう髪質なの。お前みたいにサラサラ綺麗じゃなくて悪かったな」

「綺麗だよ」

淡い暖色の小さな明かりしか灯さないベッドの中でも、まっすぐ見つめる雲雀の瞳がはっきり見える。

「光に当たるとキラキラしてすごく綺麗だ」

「お前にそう言ってもらえるとすっげ嬉しい。サンキュ」

ちゅ、とお礼のキスを額に落とすと、くすぐったいのか雲雀はぎゅっと目を瞑る。
瞑った目元と頬にもキスを落とせば細い身体が少し震えた。

「好きだよ」

胸に抱き込んだ丸い頭を撫でていると、小さく息をつく気配が伝わる。
どこか寂しげなその意味も。





風呂上がりの濡れた髪と見上げる視線がひどく色っぽくて、大人びて、ドキドキした。
胸の高鳴りは多分彼も同じ。同じ目をしていたから。

桜色の小さな唇に引き寄せられそうになる誘惑を断ち切るのは、思った以上に至難の業だった。
誤魔化すみたいに他のあちこちにキスをしても、無意識にそこに唇を寄せそうになる。
求められているのは分かっていたけどいつも踏みとどまった。
唇に触れてしまったらきっと止まらない。一瞬にして理性のタガが外れ、甘く柔らかなそれをどこまでも貪ってしまうに決まっている。

その官能は肉欲へのスイッチだ。
キスだけじゃ終われない。幼い身体を押さえ付けて、どれほど泣き叫ばれても無慈悲なまでにその身を穿ち続けるだろう事は想像にかたくない。
それはきっと雲雀の望む愛の交歓などではなく、獣じみた陵辱だ。
そんな危険な獣を解き放つ訳にはいかない。

恋人なら何人もいた。身体だけの関係ならもっと大勢。
けれど今まで一度だってこんな激しい衝動を覚えた事はなかった。
欲しくて欲しくて仕方がない。手に入れたら誰にも渡したくない。誰も見なくて済むように閉じ込めてしまいたくなる。自分だけのものにしたい。
獣の咆哮にも似た劣情が存在する事もまた、雲雀に出会って初めて知った事のひとつだった。

「綺麗なんかじゃねーよ……」

どれだけ見た目を取り繕っても、皮を剥げばたちまち醜い獣の本性が白日のもとに晒される。
それを見た雲雀に嫌悪される事を思うだけで吐き気がする。
醜い自分を晒すだけの勇気がない。だから先を望む雲雀に応えられない。触れられない。

「おやすみ恭弥」

今はまだ大丈夫。理性の糸はまだ切れていない。
ままごとみたいなキスを受け眠りにつく雲雀の寝顔を愛しく思えるくらいには、まだ綺麗な気持ちが残っている。
擦り切れかけたその糸を手繰り切る指先はどちらのものだろうか。






2013.08.31
 

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