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□快楽の代償
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雲雀にとって、全力で戦うのはとても楽しい事だった。
気持ちがよくて、楽しくて、終わりたくなくて、夢中になって武器を振るった。
そのせいか、日が落ち手合わせが終わる頃には腕を上げる事すら億劫で、疲労もあり、いっそこのまま寝てしまおうかとも思った。

「地面で寝んな!帰って寝ろ!」

ぼやくディーノに荷物よろしく担がれて、雲雀はホテルの部屋へ連行された。
身体が冷えたせいか、湯を張ったバスタブに放り込まれて、

「あったまるまで出てくんな」

と不本意な厳命までされた。
命令されるのは気に入らないが、広いバスタブは悪くない。
身体を伸ばすと細胞のひとつひとつにまで熱が沁み入るようだった。
温かくて気持ちよくて、うっかりすると縁に乗せた頭がずり落ち口元まで湯に浸かってしまうけど、それすらも心地よかった。

「おいこら!恭弥!起きろ!」

突然耳元で怒鳴られて雲雀は目を開けた。いつの間にやってきたのか、腕を掴んだディーノが心配そうな、怒ったような不思議な顔で見つめている。

「うるさい。邪魔するな」

「ざけんな。1時間経っても出てこねーから心配になって来てみれば、何呑気に寝てやがんだ。溺れたらどうすんだよ」

「浅いバスタブで溺れるわけないだろ」

「あるから言ってんだ。ったく、どこででも寝る癖どうにかしろよ。心配でしょうがねえ。寿命が縮んだらお前のせいだからな」

「それとあなたがバスタブに入ってくるのと、どう関係あるの」

「俺だって身体冷えてんだよ。お前が出たら入ろうと思ってたのに、お前一向に出てこねーし。ほら、こっち来い」

バスタブに入り込んだディーノは抵抗する雲雀をあっさり確保して腰を下ろした。
ディーノの胸に背を預けて座らされ一息つくも、すぐ身体に違和感を覚えて雲雀はディーノを睨み付ける。

「変な事するな」

「裸でくっついてりゃ触りたくなんじゃん」

ゆるゆると肌を辿っていた大きな手が下腹部に及び、雲雀は思わず息を飲む。
硬直した一瞬を見逃さず、ディーノの手は確かな意図を待って蠢き始めた。
思わずおかしな声が出てしまいそうで、慌てて雲雀は回されたディーノの腕に歯を立てた。
反響するこんな場所で、そんな声、出したくない。

「……っ……く」

沸き起こる衝動を散らしたくて、雲雀は強く瞑っていた目を開けた。
そして俯いたままだったことをひどく後悔した。視界に入った光景のせいで。
明かりを反射し煌めく湯の中で、いつもより鮮やかに映る青い炎が自分の腹や足を撫でている。
奇麗なタトゥーが不自然に白い肌上を蠢く様は、見てはいけないもののような気がして、慌てて雲雀は再び目を瞑る。

「ん……っ……」

視界を閉ざし、声を堪え、成すすべなくディーノに追い上げられていく。
そして雲雀は、焼き付いて離れないその光景を思い出して、その時を迎えた。
自分の名を呼ぶ掠れた声が、どうしてか青い炎そのものに思えた。




2014.01.21(サイトUP 2015.12.31)
 

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