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□甘い毒
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身を焼いていた熱が急速に消えていく。
沸騰しそうだった脳も発熱したような肌も冷え、本来の自分に戻りつつある。
(でも、まだだ)
身体の奥の、更に奥。目で見ることの出来ない場所に植え付けられた火種は、まだ生きている。
限りなく小さくなって今にも消えそうなのに、往生際悪くちろちろ燃える最後の火は、あと一歩のところでなかなか消えてくれない。
「大丈夫か?恭弥」
「……触るな」
「ひでー。何だよそれ」
「する事済んだんだから、もう用はないだろ。離して。もう帰る」
「馬鹿言うなよ。まだぐったりしてんじゃねえか。ほら、こっち来い」
強引に抱き寄せられて、逞しい腕に抱き締められる。
顔を寄せた厚い胸はまだ汗ばんでいて、とくとく響く鼓動も早い。
睦言を紡ぐ、耳に心地良い声音。穏やかに背を上下する、大きな掌。
心身ともに落ち着く筈の動き。
なのに深淵でひっそりと息づく残り火が、怪しい疼きを雲雀の身体に薄く、広く散らしていく。
(だから、嫌なんだ)
行為後、不用意に触れられると、身体の奥に眠る官能の火種はすぐに燃え盛り、肌に、胎内に、いまだ消えない情交の記憶を呼び起こす。
けれど不慣れな身体では、それを隠し通す事は出来なくて。
「恭弥……」
ディーノの声色が変わる。
甘く掠れた囁きは、熱が生じた証。
降りてきた唇を拒もうと背けた雲雀の顔は、長い指で優しくディーノに向き直された。
蕩ける蜂蜜を思わせる瞳が、次第に濃度を深めていく。
とろりとした甘さの中に秘めるのは、猛毒だ。
自分を自分ではない生き物に変えてしまうもの。
熱と香りに姿を変えた毒が身体を侵食する前に逃げなければ。
「……だめ」
「どうして?」
「どうしても。今夜はもう、しない」
「つれないこと言うなよ。俺は一晩中でもお前に触れていたい」
やんわりと抱き締められ、唇を塞がれる。
肉厚の唇が角度を変える度、身体の奥で息づく焔が少しずつ燃え盛る。
まるで、風で煽られたみたいに。
自分を戒めるものは、その気になればすぐにでも解くことの出来る緩やかな拘束。
なのに雲雀は抗えない。
(熱い……)
内側を残り火に、外側を甘い愛撫に燃やされる。
どちらも等しく焦がされそうなほど
熱い。
2013.12.14(2015.06.06サイトUP)