日記SSSログ
□2215節分
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「そろそろ腹減ったろ。晩飯にしような」
「何これ」
「今日は節分だからシェフに頼んで用意してもらったんだ」
連れて来られたダイニングには、無駄に高価そうな洋皿の上に一本の太巻きが乗っている。
その脇には、こちらも無駄に高価そうなカトラリー。
ここ数年でメジャーになった恵方巻はれっきとした和食なのだから、添えるなら和食器であるべきだ。
そう雲雀は駄目出ししたがディーノ達イタリア人が食べるのだと思って用意したらしいと聞かされて、それなら仕方ないかと思い直した。
「まだ沢山あるから幾らでも食えよー」
太さも長さも特大サイズなのだから一本で十分だ、と雲雀は恵方巻を両手で掴み口元へ運ぶ。
そこで、隣からおかしな気配がするのに気が付いた。
ちらりと横目で見遣れば、こちらをじっと見つめるディーノの姿。
不自然に身体は前方に傾斜し、何となく息も荒い気がする。
「ねえ」
「ん?」
「どうしてそんなに目が血走ってるの」
「そりゃ、お前の小さくて可愛い口が俺サイズの物を咥えんの見りゃ興奮すんだろ」
「馬鹿じゃないの」
雲雀は手にした恵方巻を皿に叩き付けた。
「こら!優しく扱え!」
「黙れ変態。まさかと思うけど、サイズも指定したんじゃないだろうね」
「したに決まってんじゃん。ちゃんと最大値測ったんだぜ」
「どうやって勃たせた」
「お前とのあれこれ思い出せばすぐMAXだっつの。舐めんな」
決して威張る事ではないのに誇らしげに胸を張るディーノを心底嫌そうな目で睨んでから、雲雀はぞんざいに恵方巻を掴む。
それにすら悦んでより前屈みになる男に見せ付けるように大口をあけた。
そして
「いってえ!痛ぇ恭弥!それ駄目!」
「馬鹿じゃないの。恵方巻食べてるだけであなたのそこが痛む理由が分からない」
「見てて痛いの!優しくそっと口に入れろよ!何で歯を立ててがつがつちぎり食ってんだよ!」
「僕は僕の食べたいように食べる。けどこの食べ方だと綺麗に切れないね。ああ、丁度いいものがあった」
「駄目!ナイフは駄目!死ぬ!つかそれ邪道な食い方!」
意味の分からない事を喚くディーノを完全無視して、雲雀は添えられていたシルバーで恵方巻を切り落としていく。
ご丁寧に上からガンガン音を立てて、それはもう豪快に。
横で断末魔の悲鳴のようなものが聞こえた気がしたが、そんなものはどうでもいい。
一口サイズになった恵方巻を美味しく完食した頃には、床に蹲ったディーノが股間を押さえて泣いていたけれど、それはそれとして、食後の挨拶くらいはすべきだろう。
「ごちそうさま。美味しかったよ」
「俺が貪り食われた気がします……。くっそ、今夜は使い物にならねえ……」
「それはよかった。お腹一杯になったからもう寝るよ。おやすみ」
かくして思惑の外れたディーノは、一晩中ダイニングの床に蹲りしくしくと泣き咽ぶ羽目になったのだった。
2013.02.03