拍手ログ置き場
□2013.12.03
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液晶数字を何度も確認したから、室温が適温なのは分かっている。
この部屋で使われている寝具リネンは上質で、肌触りといい保温性といい、文句のつけようがないものだ。
だがそれはそれとして、今雲雀が無駄に広いベッドの中で寒さを感じているのもまた事実だ。
「暖房……」
訪れない睡魔をあきらめて、雲雀は毛布一枚だけを手に、隣室へと続く扉を開けた。そこには、雲雀にとっての暖房器具があるはずだから。
「あれ恭弥?寝たんじゃねえの?」
「寒くて寝れない」
「嘘だろ?エアコンがっつり稼働してるし、デュベだってめっちゃいいもん使ってんだぜ」
「寒いものは寒い。だから暖房のあるところで寝る」
「うお!?」
みのむしみたいに身体に毛布を巻き付けて、雲雀はディーノが座るソファーに横たわる。ディーノの膝を枕代わりにして。
「こら!」
「うるさい。枕は黙ってろ」
「いや、俺まだ仕事中なんだけど」
「だから何。パソコンの操作くらい出来るだろ」
「出来っけど、落ち着かねーっつーか、お前に触りたくなるっつーか」
「おかしな事したら咬み殺すよ」
収まりのいい場所を見つけて、雲雀はふぅ、と息をつく。
そこそこ大きいとはいえ、ベッドと比べたら狭いソファーの上。
夜着の上に纏っているものは薄い毛布一枚で、室温はベッドルームより低い。
それなのに、さっきよりずっと居心地よく暖かい。
じわりと湧き上がる睡魔に身を委ねようとした雲雀の頭に、温もりが生じた。
ディーノの左手。
大きく温かい掌が、優しい眠りに誘うよう、ゆっくりゆっくり髪を撫でる。
薄目を開けて見上げると、ディーノの視線はモニターに向かっていた。
右の手は、器用にキーボードとマウスを行ったり来たり。
仕事に集中しているのだろう。口を開く事もしない。
こちらに向けられる意識は、恐らく割合的にはほんの僅かなものだろうけれど、その距離感が不思議と安心する。
近すぎても遠すぎても心地いいとは思えない。
本当に、暖房みたいな人だと思った。
2013.12.03