拍手ログ置き場
□2013.09.07
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「サムイ」
雲雀に対し物怖じしない数少ない生き物の一種である黄色い小鳥が、簡潔かつ的確な自己主張をしてよこす。
確かにここ暫く、日中の暑さとは打って変わり朝晩は涼しくなってきた。
「サムイ。サムイ」
「分かったから少し待ちなよ」
雲雀はヒバードの寝床代わりにしている籠から通気性のよい麻のハンカチを取り出し、その代わり小さくも厚手のタオルを丸めて敷き詰めた。
「フカフカ。アッタカイ」
「よかったね。ほら、もう寝なよ」
「オヤスミ」
器用にタオルの隙間に身体を埋めたヒバードは、ちょいちょいと小さな頭を指で撫でてやると薄い瞼をぴるぴる震わせ眠りについた。
上下する小さな身体やひくりと動く羽が暖かくて、触れた指先が心地いい。
そう思う程度には、秋の気配が近付いて来ているのだろう。
あとひと月もしたら暖房器具が必用になるかもしれない。
今その暖房器具はイタリアにあるから、寒くなる前に送ってもらわないと。
ペットが眠ったのを見届けて雲雀も布団に横たわる。
夏の間は上掛なんか必要としなかったけど、最近の最低気温を鑑みるにそろそろそれも限界だろう。
押し入れから布団を取り出そうと思ったが、雲雀は少し考えて脱衣所へ向かった。
そこから持ち出したのは、小鳥の寝床と同じく厚手の、けれどそれよりずっと大きなバスタオルを数枚。
ふかふかでいい匂いのするそれに包まると、優しく抱き込む暖房器具を思い出す。
あれはもっと熱いけど、心地よさはタオルの比じゃない。
「早く、もっと寒くなるといいのに」
身体を丸め、タオルに蹲ったままで雲雀は携帯を操作した。
まだ早いけど、本格的な秋が到来する前に暖房器具の熱さに慣れておくのも悪くないと思ったから。
メールを送信し終えた雲雀は安堵の息をついて目を瞑る。
ひとりと一羽は、奇しくも同じような寝床で今夜も健やかな眠りについた。
同時刻、イタリアにいるディーノの携帯が一通のメールを受け取った。
『差出人:Kyoya』
『本文:寒い』
2013.09.07