拍手ログ置き場
□2013.07.19
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ディーノは嘘つきである、と言う主張は、彼を知る殆どに否定される。
弟弟子に当たる草食動物は怯えながらもいかに彼が優れた男か具体例を述べるし、長年彼に仕えているらしい髭の部下は、マフィアのボスとして騙し騙されたりする事がないとは言わない、と前置きした上で、それでも彼の本質は嘘偽りとは無縁だと述べた。
それら証言が嘘ではないなら彼らはきっと騙されている。
だって、あの人は嘘つきだから。
「恭弥大好き。愛してる。お前の望みなら何だって叶えてやるぜ」
「じゃあ抱き締めるのやめて。今すぐ離れて。鬱陶しい」
「やだね」
「あっち行って。戦わないなら会いにも来ないで」
「それも嫌だ」
「何で叶えるんじゃなかったの。やっぱりあなたは嘘つきだ」
「嘘つきって言うなよ。お前こそ、どうしてそんないじわる言うんだよ」
しょんぼりと耳を垂らした犬の顔になんて騙されない。
この人の本質は肉食獣だ。油断したらあっと言う間に持って行かれてしまう。
「愛してんだよ、お前の事」
「うるさい」
嘘をついて油断を誘って身も心も取り込むのが手なのだ。
騙されない為には近付かない事。それがこの人への対処法。
「ま、いいか。気長に口説くさ」
腕の中から抜け出して距離を取る自分に焦れたのか、ディーノの方から一歩近付く。
抱き締められてまた距離が縮んだ事を知った。
「恭弥、大好き」
この人は嘘つきだと言い聞かせていないと勝手に距離を詰めようとする心が、ひどく厄介なものになっていた。
2013.07.19