拍手ログ置き場

□2013.05.26
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22歳と言う年齢は、大人なのか子供なのか分からなくなる時がたまにある。

日本の法律で言えばまごう事なき大人だ。
選挙権を与えられ、喫煙飲酒風俗その他のリミッターを外されて、その代わり犯罪時には実名報道だってされる。全てに於いて自己責任。
一方世間的には、まだ学生だったり社会人でもまだまだ未熟で、とても一人前などとは思われない。本当の意味での大人たちからはまだ子供だとまで言われてしまう。
子供のままではいられずに、かといって胸張って大人であるとも言い切れない。

今自分の目の前には、そんなカテゴリーであるはずの22歳の男が座っている。

「なあ恭弥。俺とヒバードどっちが好き?」

22歳どころか、今時小学生ですら言わないであろう二択を迫る男は、何ひとつ反応しないでいると途端にしょぼくれた顔になり、聞くに堪えない甘ったるい言葉を繰り出して自分に意識を向けようと必死になっている。

「悪い。ちょっといいかボス」

マシンガンみたいに放たれる言葉の数々に鬱陶しくなりかけた頃、彼の部下が仕事と思しき書類を抱えてやってきた。
自分への気遣いか彼らは常に日本語で会話をするけれど、株式の動向や為替相場、果てはイタリア国内での政権だとか企業間の癒着などどれひとつとして理解出来ないのだから、無理しなくてもいいのにと思う。

さっきと変わらず子供みたいにだらしない格好でソファーに座るディーノは、けれどさっきまでとは打って変わった大人の男の顔になって部下に幾つか指示を出している。

「了解。あとであんたからも本社に連絡入れておいてくれ」

「メールしとく。念の為電話もしとくか」

「そうしてくれ。邪魔したな」

そうして部下が出て行くと、ディーノは再びこちらに向き直って表情を変える。
まるで犬が尻尾をばふばふ振って飼い主と遊んでいる時のような、楽しそうで子供っぽい笑顔。

「なあなあ恭弥。俺の事、好き?」

「好きだよ」

子供でも大人でもない。
平均的な22歳に大部分の人間が下すそんな評価は、この男に関しては恐らく少しだけ言い回しが異なるだろう。
それはきっと異端なのだ。大勢と異なるものは、人間でもそうでなくても嫌いじゃない。だってそのほうが面白い。

そんな意味合いの返事だったのに、どうやら何か勘違いでもしているのか、目の前からはひどく嬉しそうな気配が伝わって来た。
きっとまた大喜びする犬を連想させる満面の笑顔にでもなっているんだろう。
そう思って視線を上げて驚いた。
そこにあったのは、緩く口端を持ち上げて、愛しげに細めた瞳に甘い光を湛えた大人の表情。

「俺も愛してるよ、恭弥」

ぎゃんぎゃん騒ぎたてる時とは違う、低く落ち着いた、それでいて甘く情熱的な囁きに、どうしてか顔が熱くなる。
ここにいる、子供でも大人でもある22歳は、日本の平均的な彼らよりずっとたちが悪かった。




2013.05.26

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