拍手ログ置き場
□2013.03.03
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ディーノが宿泊するホテルの部屋には、いつも季節の花が飾られていた。
色とりどりの華やかな花。けれど、今日見たものはいつもと趣が違っていた。
「綺麗だろ」
満面の笑顔の男が抱えるのは、細い枝に咲いた桃の花。
薄桃色の小さな花は可憐で愛らしいけれど、この部屋を彩るには華やかさが足りない気がした。
「分けてもらったんだ」
訝しげな雲雀の視線に気付いたか、ディーノは愛しげな瞳を花弁に向け、ホテルに併設されている花屋に売られていたのだと説明する。
ディーノは店員をつかまえて、育て方をしつこく聞いたらしい。見目の良い外国人男性に多大な興味を持たれて喜んだ店員は、ディーノがホテルの上顧客と言う事もあり、上等な枝ぶりのものを幾つも分けてくれたのだそうだ。
「花、小さくて可愛いな。すげー気に入っちまった。持って帰れねーかなー」
「イタリアにだってあるだろ」
「あ、そっか。庭に植えりゃいいのか。そしたらこの時期好きなだけ見ていられる」
「止めないけど。せいぜい丈夫な子を産めばいいよ」
「あ?」
「知らないの。桃は多産の象徴だ。あなた似の男の子でも産んでみたら」
「恭弥の子なら産める気がするぜー」
困らせてやろうと冗談で投げた言葉は、あっさり打ち返されてしまった。
「けど、お前に産んでもらいたい気もするなー。よっし、これから子作りしようぜ」
「は?」
「どっちか身篭った方が産むってことで」
「馬鹿じゃないの。離せ」
「いいからいいから」
「ちょっと!」
言葉と言うものは、口に出す前に良く考えるに限る。
知っていた筈の教えを改めて噛み締めるも、抵抗むなしく雲雀は寝室に連れ去られてしまった。
残された枝花は、その姿を愛でる者が居なくなっても、愛らしい花弁を綻ばせ凜と咲いていた。
2013.03.03