拍手ログ置き場

□2013.03.03
1ページ/1ページ

ディーノが宿泊するホテルの部屋には、いつも季節の花が飾られていた。
色とりどりの華やかな花。けれど、今日見たものはいつもと趣が違っていた。

「綺麗だろ」

満面の笑顔の男が抱えるのは、細い枝に咲いた桃の花。
薄桃色の小さな花は可憐で愛らしいけれど、この部屋を彩るには華やかさが足りない気がした。

「分けてもらったんだ」

訝しげな雲雀の視線に気付いたか、ディーノは愛しげな瞳を花弁に向け、ホテルに併設されている花屋に売られていたのだと説明する。
ディーノは店員をつかまえて、育て方をしつこく聞いたらしい。見目の良い外国人男性に多大な興味を持たれて喜んだ店員は、ディーノがホテルの上顧客と言う事もあり、上等な枝ぶりのものを幾つも分けてくれたのだそうだ。

「花、小さくて可愛いな。すげー気に入っちまった。持って帰れねーかなー」

「イタリアにだってあるだろ」

「あ、そっか。庭に植えりゃいいのか。そしたらこの時期好きなだけ見ていられる」

「止めないけど。せいぜい丈夫な子を産めばいいよ」

「あ?」

「知らないの。桃は多産の象徴だ。あなた似の男の子でも産んでみたら」

「恭弥の子なら産める気がするぜー」

困らせてやろうと冗談で投げた言葉は、あっさり打ち返されてしまった。

「けど、お前に産んでもらいたい気もするなー。よっし、これから子作りしようぜ」

「は?」

「どっちか身篭った方が産むってことで」

「馬鹿じゃないの。離せ」

「いいからいいから」

「ちょっと!」

言葉と言うものは、口に出す前に良く考えるに限る。
知っていた筈の教えを改めて噛み締めるも、抵抗むなしく雲雀は寝室に連れ去られてしまった。

残された枝花は、その姿を愛でる者が居なくなっても、愛らしい花弁を綻ばせ凜と咲いていた。





2013.03.03
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ