拍手ログ置き場

□2012.10.25
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「それは食べられないよ。こっちにおいで」

応接室に遊びに来た黄色い小鳥が興味深げに嘴でつついているのは、乾燥したカボチャの成れの果て。
鮮やかなオレンジ色の外側を目・鼻・口の形にくりぬいたそれは、今の時期どこに行っても飾られているものの類似品。
もっとも今ここにあるものはそれらの綺麗なものに比べ、まるで失敗した子供の作品みたいな有様なのだが。

「あながち間違っていないね。あの人、たまにすごく子供っぽいから」

歪み、ガタガタの切り口に指を這わせて、雲雀はこれが届いた時の事を思い出す。





機能美を好む雲雀の教育の賜物か、応接室内に不要なものは置かれないし飾られない。
にも関わらず、季節の装飾が室内を飾る事があるのは、海を隔てた遠いイタリアに住まう、自称・家庭教師の男の仕業。

先日届いた国際郵便の小箱を開けた途端、このカボチャをはじめ、隙間なく詰め込まれたのであろう黒やオレンジを基調とした菓子類が零れ落ちた。
それはまるで、びっくり箱そのもの。
事実雲雀は驚いて、その場で数分固まったものだ。





「あの人は、いてもいなくてもうるさい」

華やかな包装の菓子。ころころと軽快に転がるカボチャ。
目に賑やかなそれらは、いかにも彼が好みそうで。

小鳥につつかれ続けたせいか、小さく軽いカボチャはころりと机上を転がる。
雲雀が指で弾くと、尚ころころと。
手慰みを止めて見遣った窓の外は、すっかり秋の景色だ。

おそらく、季節が変わる前にはカボチャを送りつけた男が、びっくり箱と同じくらい賑やかに現れるのだろう。
その時はこれをぶつけて出迎えてやろうと、雲雀はカボチャをそろりと撫でた。






2012.10.25
 

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