拍手ログ置き場
□2012.07.07
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ディーノが応接室の扉を開けた瞬間、物凄い勢いで二つの塊がぶつかってきた。
「うお!」
思わずバランスを崩して尻餅をついたディーノが、腹にめり込んだ塊を摘み上げる。
紫色の塊は分かる。雲雀の匣アニマルだ。
ならば、まっくろくろすけみたいな黒い塊は。
「おま……ヒバードか!?うわ、何だこれ!俺のシャツまで黒くなってんじゃねえか!」
「その子達が墨汁の容器を倒してくれてね。お陰で僕も散々だった」
奥の給湯室から現れたのは、水を張ったバケツを手にしたこの部屋の主。
「墨汁……」
恐らくヒバードは全身に墨汁を被ったのだろう。よく見ればロールの四肢も黒く染まっている。
「ほら、おいで」
雲雀は一羽と一匹を取り上げ、ぽいとバケツに放り込んだ。
一見手荒な扱いだが、小動物達は無邪気に水遊びを楽しんでいる。
ヒバードのみならずロールも打たれ強くなったものだとディーノが感慨深げに視線を上げれば、部屋の隅には小さな笹飾り。
そこには、風紀委員達が書いたと思しき短冊が幾つか吊るされていた。
「七夕用?」
「そう」
「お前の短冊どれ?」
「これ」
ぴらりと掲げたそれには『風紀厳守』の四文字。
「標語じゃねーんだからさ。普通は、何々出来ますようにとか書くもんじゃねえの?」
「ほっといて。ねえ、どうしてあなたまで短冊と筆持ってるの」
「俺も書きたい」
雲雀の返事を待たずディーノは慣れない筆を操り、何とか短冊を完成させた。
「何これ」
「イタリア語。恭弥といつも一緒にいられますようにって意味の……待て待て待て!破くな!」
あわや半分に引き裂かれそうになった短冊を、ディーノは寸でのところで救出する。
「そんな恥ずかしいもの吊るす気」
「何が恥ずかしいのかわかんね。誰も読めねーんだからいいじゃん」
更なる文句や攻撃が来る前にと、ディーノは雲雀の短冊と一緒に自分のそれを笹に括りつけた。
「いつも一緒にいられたらいいと思わねえ?」
「嫌だよ。鬱陶しい」
「年に一度しか会えなかったら、年に一度しか戦えねえぞ。それが半年に一度なら二度、三ヶ月に一度なら四度戦える」
「なら毎日でも来なよ」
「食いつくとこはやっぱそこか」
色気皆無の返答もディーノの予想の範囲内。分かりやすくて、却って嬉しくなる。
「んじゃ、俺の願いが叶うようにお前も祈っててくれ」
応接室の一角にある笹飾り。
威風堂々とした四文字短冊と、外国の文字が並ぶ短冊。
墨汁に塗れた足で踏み締めたのか、動物の足跡と鳥の足跡が縦横無尽に記された短冊がそれらに寄り添うように、窓から吹き込む風に吹かれ、揺れていた。
2012.07.07