拍手ログ置き場
□2012.05.11
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「何これ」
高級ホテルの最上階、ディーノが宿泊する部屋に足を踏み入れた雲雀が見たものは、テーブルの上に鎮座する沢山のカーネーション。
「何って、カーネーション。今日は母の日だろ。ほら、お前にも」
それらを丁寧に束ねていたディーノにその中から抜き取った一本を渡されて、雲雀は途方に暮れる。
こんなもの、どうしろと言うのか。
「それはお前のマンマに。息子から花貰って喜ばない母親はいねーだろ」
「余計なお世話だよ。それより、そんなに沢山誰に渡すの」
「渡す相手は沢山いるぜ。ツナのマンマだろ、この部屋を担当してる年配のハウスキーパーだろ、来日の度にいつもロマ達とメシ食いに行く裏のカフェの女主人だろ」
指折り数えるディーノにいささかげんなりした雲雀だったが、再び花束から抜き取った大振りのカーネーションに向ける笑顔に一瞬見惚れた。
「そんで、これは俺のマンマに」
花に口付け柔らかな笑みを浮かべるディーノは、きっと子供の頃もこうして母親にキスと花と天使の笑顔を贈っていたのだろう。
それらを渡せなくなって、果たして何年経つのか。
雲雀は手にした一輪のカーネーションを見つめて踵を返した。
「え?恭弥?嘘、帰っちまうの!?」
「後でまた来る。それと、これもう一本くれる?」
慌てた声音のディーノに足を止め、雲雀はテーブルに広げられたカーネーションの中から一輪取り上げる。
「これ、渡してくる。僕とあなたからって」
一瞬目を丸くして、すぐにそれまで以上の笑顔を浮かべたディーノが、沢山のカーネーションと同じくらい綺麗だと思った。
2012.05.11