拍手ログ置き場

□2012.02.22
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ヒバリが大変な事になっている。早く応接室に行ってやれ。

並中校内で顔を合わせたリボーンに告げられた内容を反芻し、ディーノは応接室に向かって走る。
聞けば雲雀は、内服数時間後に身体の一部または全部が獣化する獣化キャンディーなるものを食べて、見事に変体してしまったのだそうだ。

「恭弥!大丈夫か!?」

扉を壊す勢いで応接室に飛び込んだディーノが見たものは、いつも雲雀が仕事をしている執務机の上に佇む黒い猫。
光沢のある綺麗な毛並みは、彼の髪によく似ていた。

「おま……こんな姿になっちまって……」

慌ててリボーンと別れたから、効果がどのくらい続くのか、解毒剤はあるのかなどを聞きそびれた。

「ずっとこのままだったらどーすんだよ」

指で小さな額を撫でて喉を擽ってやると気持ちいいのか、黒猫は目を細めてごろごろと喉を鳴らした。

「そしたら、俺が飼ってやるけどな」

ディーノは、手に力を込めたらひとたまりも無いだろう頭を優しく撫でる。
窓から差し込む陽に当たっていた身体は、ひどく温かかった。

「それにしてもお前、もうちょっとリボーンを疑えよ」

雲雀はリボーンに対して警戒心がなさ過ぎる。
彼の言う事なら二つ返事で承諾するきらいのある雲雀に、ディーノは一抹の不安を覚えた。

「あいつがやらせろって言ったらやらせるんじゃねーだろーな」

「何の話」

入口から聞こえて来た聞きなれた声に驚いたディーノが振り向くと、不機嫌そうな顔で腕を組む雲雀が立っていた。

「恭弥!?」

「何」

「お前、恭弥なのか!?」

「あなたの目には僕が僕じゃないように見えるの」

「だってお前、猫になったんじゃねーのかよ!?」

「春にはまだ早いと思っていたけど、あなたの頭はそうじゃないみたいだね」

まるで変質者を見るような目で見下され、ディーノは必死で身の潔白を訴えた。

「バカじゃないの」

一通り話を聞いた後の雲雀の第一声が、それだった。

「確かに赤ん坊からはキャンディーを貰ったけど」

「おい!」

「沢田の母親の手作りらしいよ。草食動物全員に渡してた。校内への菓子類の持込みは校則違反だけど、赤ん坊なら目を瞑るよ」

ポケットから取り出したキャンディーを、雲雀はディーノに突きつける。
掌の上には、金色の包み紙と黒い包み紙のキャンディーが一つずつ。
あげる、と言われてディーノは躊躇せず、雲雀の目と髪によく似た黒い包みに手を伸ばし、ばりばりと噛み砕いた。

「ったく、脅かしやがって……」

「ねぇ。さっき聞き捨てならない言葉を聞いた気がするんだけど」

「あ?」

「誰が誰にやらせるって?」

軽蔑したように睨まれて、ディーノは素直に頭を下げた。

「よっぽど僕は信用がないみたいだね」

「そーじゃねーけど……でもリボーンはお前にとっちゃ特別だし……いや、ごめん。さっきのは俺が悪い。撤回します」

「ふん。けど身体はともかく、彼が本気で戦ってくれるなら怪しげな薬くらい飲むかもしれないけどね」

「だめだめだめ!猫になったまんま戻んなかったらどーすんだ!」

「その時はあなたが飼ってくれるんじゃないの」

そう言うと雲雀はひょいと黒猫を抱き上げて部屋を出て行ってしまった。
顔を真っ赤にさせたディーノも雲雀を追って部屋を出て、応接室は再び無人の静けさに包まれた。





「おいリボーン。お前まだそんなもの持ってんのかよ。早く捨てろって」

「何言いやがる。ママンの手作りキャンディーを捨てるなんて勿体無い真似する訳ねぇだろ」

「変な薬が一つ紛れてんだろ!そんなロシアンルーレットなキャンディーなんて、怖くて食えないよ!」

「安心しろツナ。獣化キャンディーはあれだけ包みの色が違うんだ。袋にはもう入ってねえ」

「そっか、なら良か……いや、良くないよ!誰かの手に渡ったって事だろ!」

「そうなるな」

「何で呑気にしてられるんだよ!」

「命に別状はねぇし、サンプル品だから効果も半日で切れる。それよりも、折角ママンが作ったキャンディー残したりしたら承知しねーぞ。さっさと全部食え」

「ったく……」

綱吉の手に押し付けられた袋の中には、金色と銀色の包み紙を纏ったキャンディーだけが残っていた。





その夜、可愛い恋人をベッドに待たせたディーノは、頭に犬の耳を乗せバスルームで一人途方に暮れる羽目になったと言う。






2012.02.22
 

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