拍手ログ置き場

□2012.01.28
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『ソレ』は、いつも突然に来る。
前触れも、予感もなく。
ほんの些細な仕草ひとつで。




行為の後、眠った雲雀をそのままに隣室で仕事をこなしていたディーノの元へ、大きなシャツ一枚だけを身に着けた雲雀が訪れた。

「起きたのか」

仕事中だけ掛けている眼鏡の奥で蜂蜜色が甘やかに蕩け、雲雀を手招きしてよこす。
鼻の上に皺を寄せた雲雀は、どことなく不機嫌そうな困惑しているような。

「どした」

自らディーノの膝に跨るようにソファに乗り上げた雲雀の顔を覗き込むと、黒い瞳が潤んで見えた。

「これ、あなたの匂いがする」

細い指で摘んだシャツは、ディーノのもの。

「匂いはするのに本体がいなかった」

ディーノの匂い、ディーノにつけられた痕、ディーノの放った熱。
それらはあるのに、ディーノだけがいない。

「寂しくなった?それとも」

欲情したかと囁かれ、雲雀はぶるりと震えてガラスの奥を見つめる。

いつだって、突然やってくるのだ。
ディーノを欲しがる波が。

そう、例えば、脱ぎ散らかされたシャツを抱き締め、香りで胸を満たしただけで。

「じゃあ、可愛く俺の事誘ってみせて」

続いて囁かれた言葉に恨みがましく睨んでみせるも、優しげな風貌に意地悪な瞳をした男は何処吹く風。
言われた通り、雲雀は薄いシャツの裾を持ち上げて唇で食んだ。
両手は後ろで組み合わせる。
自ら下肢を晒す事に羞恥が無い訳ではないが、それでも今はディーノが欲しかった。

「いい子だ」

ごつごつした指が身体の線を辿る度に仄かな熱が小さく全身に広がる。
声も出せず、不自然な体勢故に身じろぎも難しい。

強制された訳ではなく、すぐに解く事も可能な自主的拘束。
それなのに言いなりになってしまうのは、この先を期待しているから。

ぼんやりと、そんな事を考えていたから、ディーノが耳に唇を寄せた事に気付かなかった。

「あっ……」

耳朶を噛まれ、反射的に小さな喘ぎが零れる。
当然、食んでいたシャツの裾は唇から離れて。

「お仕置き決定」

口を離したらお仕置きな、と綺麗な笑顔で告げられていた。
後ろで組んでいた手を外されてソファの上に押し倒される。
頭上に伸ばされた両腕を、硬質な音と共に冷たい金属が戒める感触が伝わる。
圧し掛かり見下ろすのは、光を反射するガラスにも隠せない獣じみた情欲を纏った鳶色の瞳。

それがとても綺麗だと、甘く激しい口付けに溺れながら頭の片隅で思った。






2012.01.28
 

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