拍手ログ置き場

□2011.11.18
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珍しく急ぎの仕事もなくのんびりと書類を捲っていたディーノの元に珍しい客人が現れたのは、単にタイミングの問題だったのだろうか。

「珍しいな、事前に連絡よこしてから来るなんて」

「わざわざ出向いて空振りに終わるのも嫌だったからね。迷惑だった?」

「まさか。お前が来てくれるならどんな仕事だって後に回すさ」

「それはどうも。今日は礼を言いたくてね」

「礼?」

「この間譲ってくれた鉱業権だよ」

雲雀から、ディーノが経営する表企業が所有する鉱業権を譲渡して欲しいとの申し入れがあったのは数ヶ月前の事だった。
それまで鉱山の採掘がもたらしていた利益と提示された買取額、それにプラスアルファとして差し出された対立ファミリーの極秘情報。
それらを照らし合わせるだけでもキャバッローネとしては十分利益の出る取引だったし、何より取引相手は最愛の恋人だ。
恋人のお強請りを聞いてやりたいというのは古今東西変わらない。

幹部会議にかけて了承を得た後、正規の手続きを踏んで、イタリア国内にあるその小さな鉱山を開発・採掘出来る権利は合法的に風紀財団に書き換えられた。
全ての手続きが済んだのが、ついこの間の事だ。

「あれくらいどうって事ねーよ。こっちも利便を図って貰ったし」

「それでも一言礼を言いたかったんだよ。どうしても欲しかったからね。ありがとう」

珍しい事と言うのはこれ程までに重なるものか。
気が向かなければ訪問などしてくれない雲雀が、自分の元に足を向けてくれた。
それだけでディーノとしては上機嫌この上ないのだが、めったに見せてくれない綺麗な微笑と共にそんな事を言われては堪らない。
礼だの謝罪だのとは無縁だったかつての子供時代を思うと、尚更感慨もひとしおだ。

「礼は言葉だけか?」

冗談めかして笑いかけるディーノに雲雀は近付き、身を屈める。

「あなたの好きなように」

囁きざま触れ合わせた唇は次第に深く重なり合い、やがて部屋には衣擦れの音と密やかな吐息が静かに広がっていった。




その数年後、地殻の変化か何らかの力が作用したのか、その鉱山の鉱石含有量が増殖し、希少鉱石の採掘量が増えたと共に鉱業権を持つ日本の財団の資産が大幅に増えた事が世界のビジネスニュースで取り上げられディーノは顔を引きつらせる事になるのだが、今はまだそんな未来に思いを馳せる事なく、久々の逢瀬を楽しんだ二人の寝顔はひどく穏やかなものだった。





2011.11.18
 

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