拍手ログ置き場

□2011.10.18
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思った以上に仕事が長引いた。待ちくたびれた雲雀は帰ってしまっただろうか。
一人を好むくせにほったらかされるのは気に入らない我侭な恋人は、けれどディーノの予想に反して穏やかにホテルのリビングで寛いでいた。
テーブルの上にはオレンジや黒を基調とした菓子がこれでもかと乗せられている。

「沢山貰ったなー」

「待ちくたびれて帰ろうとする度にあなたの部下が持って来た。おかげでこの様だよ」

飲食物を残す事を嫌う雲雀の性質を理解してか、部下たちが雲雀の機嫌を取ろうとする時は大抵雲雀の好む菓子類で餌付けする。
ボス思いの部下にも、餌付けされてくれる雲雀にも、どちらにも等しく感謝してディーノは雲雀の傍らに座り込む。

「ハロウィンのお菓子なんて、どれだけ僕を子供扱いしてくれるのかな」

紛れもなく子供のはずの雲雀はどこか不機嫌そうだが、沢山の菓子に囲まれて、それらを小鳥と分け合って口に放り込む姿はディーノの目にはひどく可愛らしく映った。

「貰えるモンは貰っとけ。仕事で頭使ったから俺も糖分補給」

どう足掻いても雲雀一人では食べきれないであろう菓子の山に伸ばしたディーノの手は、すぐに雲雀に叩き落される事になる。

「んだよ」

「僕が貰ったんだから僕の」

「子供扱いされんの嫌なんじゃなかったのか」

「それとこれとは話が別だ」

「ふうん。Trick or Treatって知ってる?」

「それ言っていいのは子供だけだよ。大人のあなたは不可」

「お菓子食えないんなら恭弥食っちゃおうかなー」

ディーノは雲雀の口元に付着したチョコレートを素早く舐め取りその顔を覗き込む。
たった今まで辛辣な言葉を吐いていた口元はきゅっと結ばれて、睨みつけてくる目元は真っ赤だ。

それこそ子供がするような戯れ。
なのにこうまで過敏に反応されてしまえば、こちらとしても違う方向に意識してしまいそうで。
どう取り繕ったものかと狼狽しているディーノのもとに、小さな袋に包まれたチョコレートが投げ付けられた。
投げ付けた本人は顔を赤くして相変わらず不機嫌そうだが、どうやらこれは食べてもいいらしい。

「お菓子と僕と、どっちが食べたいの」

いそいそと袋から取り出したチョコレートを口の中に放り込んだディーノは突然の質問に動きが止まる。

「そりゃー……ダントツ恭弥」

「どちらかしか選べないなんて大人って面倒だね。僕ならどっちも貰うのに」

言いざま重ねられた小さな唇。
ディーノの口内に収められたチョコレートはまんまと取り上げられた。
してやったりな子供の表情。けれど僅かに覗く舌先は艶かしくて、とても子供だなんて油断していられない。

「お菓子もあなたも、よこしなよ」

今度こそ撃ち抜かれたディーノは、チョコレート味の唇をしばし堪能する事に決めた。





2011.10.18
 

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