拍手ログ置き場
□2011.08.03
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買い物があると消えたディーノを、輸入雑貨や食品を扱う店の前で何をするでもなく待っていた。
ただでさえ混雑する店内の、場所柄女性客が多い空間に入り込む気などさらさら無かった。
「わり」
やがて店から出て来たディーノは僕の機嫌の微妙な下降を見て取ったか、無駄口叩かず歩き出した。
「待たせてゴメンな。これ、詫びの品」
渡された小瓶。
その中のとろりとした飴色の液体は光に当てるときらきらと輝き、瓶の傾きに合わせてゆっくりと小波を作り出す。
「何」
「蜂蜜。イタリアの」
僕が知っているものとは、色合いもその濃淡も随分と違う。
薄茶色とも金色ともつかないそれは日の光を受けて白っぽく光り、どんどん色合いを変化させる。
「いろんな種類あるけどそれはわりとメジャーな奴だから、口に合うと思うぜ」
頭を撫でる大きな掌に誘われるように顔を上げると、そこには見慣れた笑顔。
(蜂蜜)
細められた瞳は、手の中の蜂蜜と同じ色をしていた。
この瞳が色を変える事を僕は知っている。
目の縁を紅く染めた瞳は濃さを増し、潤み膜が張れば溶け落ちてしまうんじゃないかと思う程熱と甘さを滲ませる。
それはこの蜂蜜なんかよりもずっと綺麗だから、味だってきっと甘いに違いない。
「んだよ」
じっと瞳を見つめていたからか、ディーノが居心地悪そうにそわそわし始めた。
「んな目して見てっと、喰っちまうぞ」
「どんな目」
「んー、綺麗な黒飴みてーな目。甘くて美味そう」
「あなたの目の方がきっと美味しいよ。食べさせなよ」
何となく言ってみただけなのに、ディーノは途端に顔を赤くして固まってしまった。
「お前……たまにさらっとすげー事言うよな」
小さく呟いたかと思えば、僕の手を取って歩き出してしまう。
「何なの」
ディーノは答えず、掴んだ手を強く握り直すだけ。
大きな手はとても熱かった。
瞳も熱くて潤んでるのかもしれない。
僕の手の中の蜂蜜のように。
2011.08.03