リクエストSS
□いつか出会う君
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行為の後、未だ消えない濃密な空気。
その空気に晒す肢体も今尚赤く染まり、行為の余韻を色濃く残している。
「あなた最近加減しなくなったね」
整い切れない息の下、寝具に身体を横たえて雲雀は傍らで身を起こす男に言葉を投げる。
「昔は焦れったくなるくらい穏やかだったのに」
「当然だろ。子供の身体に無茶な事出来るかよ。俺だって男はお前が初めてだったから手探りだったし。大事なお前に痛い思いも怪我もさせたくなかったの」
昔を思い出したのか、柔らかな表情でディーノは雲雀の髪を撫でる。
日本に於ける雲雀の拠点、風紀財団施設内の雲雀の私室に敷かれた寝具はイタリアのディーノのベッドよりも狭く、自然と身体は密着する。
「優しくされたい?」
「まさか」
覆い被さってディーノが聞くと不機嫌そうな雲雀に頬を張られた。
「今更手加減なんてしたら咬み殺す」
「俺も手加減してやれる余裕なんてないな」
髪に、額に、頬に落とされるディーノの唇。ある種の予感を孕みながらも、まだ体内の火種は沈黙を守っている。
「じゃあ、女相手の時はどうだったの」
予想外の言葉はディーノの動きをぴたりと止めた。
「僕とこうなる前には大勢相手がいたんだろ。彼女達とはどうだったの」
「……それを今聞くか?」
「普段は優しくて甘やかしてくるけど、ベッドの中では豹変するよね。女相手でもそうだったの?」
「あのな……」
何とかこの話題から逃れたいディーノだったが、雲雀は面白がっているのか一向に話題を変える様子はない。
「子供の頃からそうだったのかな……ねえ、あなた初恋はいつ?」
「は?」
「どんな人?初めての相手もその人?」
「待て待て待て」
「教えなよ。あなたは僕の初めてを全部身を持って知ってるくせに」
不機嫌そうに睨みつけるが雲雀の瞳には怒りの色はない。どうやら単純な好奇心らしい。
ディーノは大きく溜息をつくと、諦めて過去の話を始めた。
「初恋は……わりぃ、覚えてねぇ。多分パン屋のアンナか、町外れの食堂のローザだったと思うけど……」
「同じ年頃の子?」
「いや年上」
「ああ、あなた年上好きそう」
「うるせ」
「学校の子とは?」
「昔は俺へなちょこの弱虫でさー、しょっちゅう苛められては泣いて、殴られては泣いて……ああ、上着破られた事もあったっけ」
壮絶な学生時代をディーノは目を細めて懐かしげに語る。既にそれは懐かしいだけの過去になっているのだろう。
「でも、モテただろ」
「まあな。こっそり傷の手当してくれる子や破られた上着繕ってくれる子はいたぜ」
弱いけれど見目の良いディーノに恐らく母性本能が刺激されたのだろう。雲雀にはその光景が目に浮かぶようだ。
「けど正直その頃はリボーンの修行やら何やらで、恋愛ごととか全然興味なくてさ」
ボスを継いでからもキャバッローネを立て直すのに忙殺された。
長じてからは勿論女性と関係を持ったが、相手の顔すら覚えていない。
数多く存在した恋人や愛人達もしかりだ。
「そう言う意味じゃ、お前が初恋だよ」
十年前、リボーンの計らいで極東で出会った運命の人。
その姿を目にし、声を聞き、その身に触れる度に心に湧き起こる喜び。
それは初めての感情だった。
「昔も今もこれからも、俺が愛してるのはお前だけだよ」
「その台詞、今まで何人の女に言ったの」
「ひでぇな」
拗ねた物言いの割りに楽しそうに笑う雲雀に軽く口付けると、ディーノはまだ熱の冷めない細い肢体に手を滑らせた。
「……また?」
「こんな話持ち出して煽るお前が悪い」
「簡単に煽られるあなたもどうかと思うけど」
ディーノの首に腕を絡め、雲雀はディーノを引き寄せる。
「ん……」
互いの唇が重なり、舌で表面を愛撫する。どちらからともなく舌を絡ませより深く口付けようとした時、それは起こった。
「……っ!?」
大きな爆発音と白煙。
雲雀は咄嗟に、自分に覆い被さっていたディーノを庇おうとその身体を抱き締めた。
(え?)
触れる感触が違う。
身体が覚えているよりも小柄な身体に違和感を覚え、雲雀は目を凝らす。
「……何が起きたんだ?」
聞こえて来た声は少し高くて。
徐々に白煙が消え、自分の腕の中にいる人物を見る事が叶うと、雲雀は思わず息を飲んだ。
金色の髪も、それより少しだけ濃い鳶色の瞳も同じ。
けれどディーノよりも一回り以上小さな身体とあどけない子供の顔つき。
「ディーノ……?」
「お前……誰だよ……どこだよ、ここ……」
高めの声で困惑するのは、どう見ても子供時代のディーノだった。