恋涙〜賢者の石〜


□汽車に揺られて移動中
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 ロンはハリーが見えやすいように上げた前髪の隙間から見える稲妻型の傷跡を目の当たりにして「ワァーオ」と驚いている。ハリーはそんなロンをマジマジと見つめた。

  「…気に入った」

 小さく笑いながら呟いたハリーにリドルは心臓が掴まれたような痛みを覚えた。良くも悪くもハリーは彼を気に入ったようだ。リドルはハリーを見つめる。穏やかに微笑んでるハリーは大変愛らしい。だがその瞳に今は自分ではなくロンがいる。
 リドルは胸に氷の塊が落ちていたような感覚を覚えた。しかし初めての感覚にリドルは戸惑っていた。
 リドルがそうなっているとは気付かずにハリーはロンとの会話を楽しんだ。リドルに話を振ると何故か互いのペットの話になっていった。

「それじゃあ、ハリーは梟をもらったの?良いなぁ」
「ヘドウィグって言うんだ。そう言えば、リドルは手紙書いた?」
「ううん。ホグワーツに入学してから書こうって決めてるから」
「誰に手紙を書くの?」
「「エリスティーナ・カダス」リドルの名付け親なんだって」

 其処でロンがギョッとなり、自身のペットである鼠のスキャバーズを落としてしまった。スキャバーズは猫のエリスから逃げようと床を走り回るがエリス自身はそれを呆れたように見つめるだけだった。

「エリスティーナ・カダスだって?!彼女が名付け親って…それじゃあ、トム…君の父親ってまさか…『名前を言ってはいけないあの人』なの?!」
「あぁ、ヴォルデモート卿?そうだね、確かに『アレ』は僕の父親らしいね」

 リドルは息を吐きながらエリスを撫でた。エリスは甘えるようにリドルに擦り寄りゴロゴロと行儀良く寛いでいる。

「でも、君…さっきトム・リドルって」
「だって、『リドル・ヴォルデモート』なんて言ったら君、今みたいになるだろ?それに、僕は気安く名前を呼ばれるのって嫌いなんだ。だから『トム・リドル』って言ったの。君を『ロン』って呼ぶのと一緒でしょ」

 リドルは思わずツンとそっぽを向いた。ハリーがそんなリドルに対して北叟笑むんでいるとも知らずに。

「ねぇ、ヴォルデモートとエリスティーナ・カダスって…何か関係あるの?」

 ハリーはリドルに気付かれる前に笑顔を引っ込めてロンに聞いた。内容が内容だからか、リドルもロンを見つめている。どうでも良いが、何故ロンは『ヴォルデモート』と聞くだけで椅子から5センチ飛び上がる勢いで怯え跳ねるのだろうか。

「君達…『闇の帝王』を名前で呼んだ!!」
「だってそれが名前でしょう?」

「ネームセンスを疑うね。『ヴォルデモート』なんて、絶対に自分で付けたんだ。ナルシストもイイとこだよ」
「そうなの?」
「多分ね。大方、自分の名前が嫌いなんじゃない?」

 リドルの仮説にハリーが首を傾げるが、ロンは違った。ハリーが『生き残った男の子(女の子)』だと知った時と同じ表情でリドルを見つめている。リドルは何故かその表情で笑いたくなり、笑うのを必死に堪えていた。何だか弄りたくなる。もしや、ハリーは其処に対して『気に入った』と言ったのだろうか?そう考えるほど彼のこの表情は中々面白い。

「あのね、ロン。僕達彼の名前を“言ってはいけない”なんて知らなかったんだ。魔法界のことも買い出しの日にちょこっと知っただけ。だからどうして名前をいうことが怖いのか…判らないんだ」
「そっか…君たちはずっとマグルの処で育ったんだよね。だから『闇の帝王』と『闇の薬師』のことも知らないんだ」
「『闇の薬師』って?」

 リドルは思わず聞き返した。ハリーも訝しげにロンを見つめている。ロンは両膝に肘をついて真顔になった。不謹慎にもその表情があまりにもロンには不釣り合いだったので笑いを堪えるために二人も真顔になった。

「『闇の薬師』って言うのはエリスティーナ・カダスの異名さ。彼女は魔法薬と闇の魔術のエキスパートで…『帝王』の恋人だったって噂がある女性さ。背が高くて、星色に輝く銀髪とカダス家の証でもあるピンク色の瞳で超絶美人。ホグワーツの教師のマクゴナガルと一緒に教員職についたんだけど、それもやっぱり『闇の魔術に対する防衛術』を担当してたんだって」
「『あの人』の…恋人?」
「…冗談でしょ?」
「あくまでも噂だよ。だってカダスはダンブルドアと仲が良かったらしいから」
「…なんか、益々謎が深まったかも…」

 椅子に深く沈みながらリドルが大きく息を吐いた。そんなリドルにハリーがクスクスと小さく笑った。

「そういえば、君の家族って賑やかで楽しそうだね」
「家族?」

 ハリーが唐突に話題を切り替えたのでリドルは首を傾げた。
 実はハリーとリドルはバーノンにキングズ・クロス駅まで連れて行ってもらったが、そこから短時間だけ別行動をしていた。と言っても、車酔いで降臨した『ハリー様』がバーノンがわざとジグザグの下手くそ運転をした事にぶちギレて持っていた金貨で沢山の十円傷を作りに駐車場に行き、その間にリドルが9と4/3号線を見付けてきたぐらいしかしていないが。


 
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