恋涙〜賢者の石〜


□誕生日。君に誓う小さな決意
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「死の…」
「…呪い」
「そうだ。お前さんの額にある傷跡を不思議に思ったことはなかったか?並みの切り傷なんかじゃ強力の悪の呪いを受けたときに出来る傷じゃ」
「…そんな」

 ハリーは胸元をキュッと握り締めた。目を瞑れば今までよりも強くあの緑の閃光が脳裏に浮かんだ。それだけではなく、男の残忍な高笑いの声を聞いた。

「ハリー…俺は、産まれたばかりのお前さんを抱いたことがある。その時は、確かにお前さんは男の子じゃった」
「え?」
「…詳しくは知らんが、その呪いが“傷”と“性別を変えた”のかも知れん。何せ全てが謎だらけだ。唯一判ることは、暗黒の日々を終わらせたのはハリー、お前ぇさんだと言うことだ。だから皆がお前ぇさんを知っとる。リドル、お前ぇさんの事もだ。何せお前ぇさんは『闇の帝王唯一の嫡子』…知らんもんはいない」
「…僕の母親は誰なの?よくそんな極悪人の子供を産む気になったね」
「…実はな、その事も謎なんじゃ。名付け親がエリスなのは知っとるが、そのエリスが誰にも話さずに姿を消したからな。皆が『闇の帝王』に幽閉されていると考えとるが…実際は判らん。ただ言えるのは、エリスはお前ぇさんを気にしとった。ずっとずっと」
「僕を?」

 ハリーはリドルの胸元にあるペンダントを思い出してそれを目で示した。それに気付いたリドルがペンダントを取り出した。すると懐かしむ様にハグリッドが目を細めた。

「お〜!!それはエリスティーナがずっと着けとった魔石じゃ!!この石には対になる石が存在していて、それを持つ二人には何らかの繋がりを与えると言い伝えられちょる」
「…そうなんだ」

 リドルはジッと石を見つめた。透き通った美しい石を。これが、もしかしたらエリスが対になる石を持っているかも知れない。そう思うと、心が暖かくなった。ハリー以外でそれを感じたのは初めての事だった。

「ダンブルドアの言い付けで、二人をダーズリーの所に連れていったのは俺だ…こんなマグルにの所にな…いや、すまなかった」

 ハグリッドが頭を垂れると二人は慌ててそれを止めさせようとした。上司の命令なら仕方がないし、成り行き上、唯一の親戚に預けられるのは当然だ。ハグリッドが謝るのは検討違いだ。

「馬鹿馬鹿しい」

 すると、やっと勇気を取り戻したのかバーノンが話に割り込んできた。二人は此処でやっとダーズリー一家の存在を思い出した。そう言えば、居たな…程度にだったが。

「良いか、小娘に小僧。よく聞けよ、お前らは確かにへんちくりんだがみっちり仕込めが治る。それに、お前の両親は確かに変人だった。連中のような奴等はいない方が世の中の為だ。実際に、録な死に方をしちゃいない」
「それ以上、ハリーの両親を悪く言うな!!」

 ハグリッドが怒りで口を開く前にキレたのリドルの方が先だった。
 暖炉の火が、まるでキャンプファイアの様に勢いよく燃え出した。薪も入れていないのにだ。

「今の話を聞いて、あんた何も感じなかったのかよ」
「…どういうこと?」

 細められた真紅の瞳は壁に張り付いて縮こまったダーズリーからハリーへと移された。

「つまりね、ハリー…君が世界を救ったんだ。僕のろくでなしの父親からね。でも、その代償に…君は家族を喪ったんだ――永遠に」
「――ぁ…」
「ごめんね、ハリー…僕の父親が君からは家族を奪ったんだ。それだけじゃない…沢山の人達の命を、虫けらみたいに…そうだろう?ハグリッド」
「フォローしたいのは山々だが、その通りだ。しかも、どうやってハリーが『例のあの人』を退けたのか誰も判らん。『あの人』はハリーを殺そうとして消滅した。お前さんの何かが、奴に打ち勝ったんだ」

 ハリーはハグリッドから目を逸らした。尊敬と敬意の眼差しを向けられても何も感じなかったからだ。あるのはただ、リドルに対する罪悪感のみ。自分の何かがリドルから家族を奪ったという事実。世界の平和や希望より、傍にいる大切な人の世界を奪ったという事実が虚無感を生み出しハリーを支配した。

「…何かの間違いだよ、僕は、魔女なんかじゃない。ただの…ハリーだ」

 そうで在りたいと願いたかった。リドルと共通な特別なのは嬉しかったが…そのせいでリドルを天涯孤独にしたのは自分の不可思議な何か。そんな力なんて要らない。リドルを傷付けるだけの力なんて欲しくない。ハリーはその思いでいっぱいだった。

「そうか、ほいじゃ“只のハリー”はずっと此処に居たいのか?」
「…え?」
「お前さんが悲しかった時や困った時、何も起きなかったのか?」
「…そう言えば、ガラスが割れて不良達に突き刺さったり…消防車の水が痴漢に直撃したり――…」
「ハリー…不良に絡まれてたの?!」
「今じゃ下僕だけどね(爽笑)全身の関節の皿を割ってあげたら大人しくなったよ♪」

 無邪気に言う内容ではないが、ハグリッドは大人の意地で其処はスルーした。


 
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