捧げ物


□異人さんいらっしゃいました
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 ヴォルは溜め息を吐いた。此処はホグワーツでも危険な『禁じられた森』の入り口だ。しかも今年は吸魂鬼が構内にいるのだ。ハリーの過去に引き寄せられる彼らに狙われているのに、人が寄り付かないこんな薄暗い場所で寝て良い筈がない。と、いうよりも不用心すぎる。
 ヴォルは先程から規則正しく寝息をたてるハリーに、より深く溜め息を吐くとうつ伏せに横たわるハリーに近寄った。

『おいハ「ハリー?!」

 起こそうと思い、声を掛けようとしたヴォルを遮るように薮の向こうからやけに覚えのある少年の声がハリーの名を呼びながら現れた。

「ハリー、しっかりして…?!」

 ヴォルは声の驚き動きを一瞬止めたのだが、少年の容姿に更に硬直した。幼少の頃の自身にそっくりなのだ。声も容姿も。固まらない方が可笑しいだろう。

「…っ…ん…」
「…ハリー」

 少年はうつ伏せに寝ていたハリーを抱き起こし心配そうに何度も何度も頬や髪を撫でている。やがてハリーはゆっくりと瞳をあけた。それを見た少年は張り詰めていた緊張が溶けたのか肩の力を抜いた。ハリーは暫く少年を見つめていたが周りを見渡し始めると甘えるように少年に抱き着いた。

 ヴォルは更に固まった。

「ハリー、怪我はない?大丈夫?」
「…僕は平気。リドルは?」
「僕も平気だよ」

 目の前で繰り広げられている光景はなんなのか…ハリーが過去の自分に瓜二つの少年と恋人さながらなムードで会話を続けている。しかし、目の前の少年を、ハリーは『リドル』と呼ばなかっただろうか?

「…すっかり暗くなっちゃったね」
「大丈夫、吸魂鬼やブラックが来ても僕が守ってあげるから心配しないで」
「…ブラックは良いけど、アレは嫌だな」
「――…そうだね。でも、だからって独りでこんな処で守護霊の練習するなんて危険すぎるよ」
「…だって、リドルみたいに上手くいかないんだもん」

 ヴォルは無言で二人を観察する事にした。最初こそ驚き、固まったりしたが…このハリーと少年には言葉では言い表せない違和感があった。それに答えが出るまで黙ることにしたのだ。

「…でも、アレは何だったのかな?」
「…何もないところからいきなり火花が出て、吸い込まれたような感覚はあったけど――…特に景色に代わり映えないからホグワーツではある筈だよ」
「調べてきたの?」
「うん。ハリーより先に目を覚ましたからね」
「起こしてくれたら良かったのに…」
「…ごめん」

 ヴォルは二人の会話から状況を整理していた。たしか昔読んだ古書の中に二人が話している状況に似た記述があったような気がする。気がするが、詳細は知らない。可能性の話を記載していたし、何よりも自らの欲する知識ではなかったのであまり深くは読まなかったのだ。

「取り敢えず、城に戻ろうか」
「うん――ッ」
「…ハリー?」

 少年は(『リドル』と云うらしい。偶然にして出来すぎだ)ハリーを覗き込む。体を曲げ、俯くハリーと視線を合わせた。そうする事で彼のローブの中がチラリと見えた。スリザリンのネクタイとローブに合わない深紅と陽の色のラインが入ったベストを着ている。そう、ベストはスリザリンではなくグリフィンドールの物だ。

「…しょっとして、足捻った?」
「…みたい。でも大丈夫、立てるよ…?!チョッ…リドル?!おっ降ろして?!////ι」
「だめ。捻ったなら体重をかけない方が良いよ。医務室に行こう」
「ダメ!!////ι恥ずかしいよ!!////ι」

 リドル少年は軽々とハリーを抱き上げる。所謂お姫様抱っこだった。そしてヴォルは、ハリーを見て愕然とした。

 まるでお揃いのように、グリフィンドールのローブの下のベストがスリザリンの物だったからだ。

「お願い、リドル…降ろして?////ι」
「だぁ〜め。いつもならどんなお願いでも叶えてあげるけど今回は譲らないよ」

 ヴォルはここでふと、ハリーに“違和感”を感じた。まず…そう、眼鏡だ。眼鏡があの丸縁ではなく細い楕円フレームだ。それにいつもマルフォイ家の坊っちゃんから貰った銀縁花のヘアピンがシンプルな深紅のヘアピン二本に変わっている。それに、リボンも自分が与えた物より色彩が鮮やかな若葉色をしている。何より、冷えた空気を感じる。自分が手塩をかけて目をかけている少女に『陽光』のイメージが似合うなら、目の前のハリーには『月光』が似合う。リドル少年にも言えることだ。彼は『声も容姿も』自分にそっくりだ。だが、自分には幾ら探してもこんな献身的な性格はない(筈)。だが、彼はハリーを労るように抱き上げているしハリーの必死の願いを結局、条件付きで聞き入れ…今は彼女の左足に魔法で冷やしたハンカチと自身のネクタイを縛り固定させている。

「…治癒の魔法は苦手なんだ。ごめん」
「ううん、大丈夫。ありがとう、リドル」
「手、繋ごう。支えてあげるから」
「…うん」

 頬を染めるハリーに、そんなハリーに向かい蕩ける程甘く微笑むリドル少年。


 
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