恋涙〜賢者の石〜


□汽車に揺られて移動中
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「…ハリー、お水飲む?」
「…のむ…」

 リドルは鞄からミネラルウォーターを取り出してハリーに渡した。ミネラルウォーターを受け取ったハリーは一口飲むとリドルに渡し白い肌を更に蒼白くさせてぐったりと背凭れにもたれ掛かった。

「…彼奴ら帰ったら呪ってやる…」
「いいよ、リドル。時間の無駄だから…」

 ハリーは当然の様に隣に座ったリドルの膝を枕にして横になる。リドルはそんなハリーの頭を撫でた。

「それにしても驚いたね。壁に向かって行くなんて」
「僕、思わず目瞑ちゃった…」

 リドルは先程の光景を思い出しながらハリーの気が紛れるように話し続けた。

「これでやっとホグワーツに行けるね。どんなところなのかワクワクするよ」
「…あ、それで思い出した」

 ハリーは閉じていた瞳をパチッと開いた。そして一度キチンと座り直すとリドルを見上げた。

「あのね…リドルのシャツ、一枚貸してほしいの」
「シャツ?別に構わないけど…」

 リドルは今羽織っている黒い長袖のシャツをハリーに羽織らせた。ハリーはそれに嬉しそうに袖を通した。リドルのシャツはハリーには大きく、ハリーの指先が僅かに見える程度しか残らなかった。


「このコンパートメント、寒かった?」

 リドルはちょこんと覗くハリーの細い指先をそっと握った。ハリーは小首をかしげてリドルを見つめるが直ぐに首を振った。

「寒くないよ…?ただ、同じ寮であっても別の寮であっても寝るときは別々でしょう?」

 リドルは頷いた。寝る部屋は当たり前に男子と女子に別れるはずだ。つまり今までのように固くて狭いベッドに寄り添うように寝れなくなる。リドルは内心ではそれが酷く残念に思っていた。

「でも僕、リドルが隣にいないと安心して眠れないみたいで…だからリドルの薫りに包まれたら少しは眠れるかなって、考えたの」
「…ハリー、もしかしてこの数日間ずっとそれ試してたの?いつも僕より遅くベッドに入るのに、僕より早くベッドに入って寝れるか確かめてたの?」
「…うん。結局、リドルがギュッてしてくれないと眠れなかった。だから今、凄く眠いの…寝不足みたい」

 眼鏡を外して眠そうに目を擦るハリーのあまりにも可愛らしい発言にリドルは自分の中の何かがグラグラと音をたてて崩れそうになるのを必死で堪えていた。
 一方のハリーはリドルのシャツの効果なのかとても眠そうだ。こっくりこっくりと船を漕ぎ始めている。


 リドルはそんなハリーにハッと気付くと眠るように薦める為に口を開いた。しかしそのタイミングで赤毛の背の高い少年が申し訳なさそうにノックをし、コンパートメントのドアを少し開き顔を覗かせた。

「あの…ここ空いてる?ほかは何処もいっぱいだったんだ」
「…空いてるよ?」

 ハリーが頷いてしまったので反論することも出来なかったリドルは距離を置いて座り直したハリーに若干ショックを受けながら窓辺のエリスに目を向けた。

《…ニャオン》

 猫のエリスはハリーが大好きなようだった。飼い主のリドルよりハリーの膝の上に良く座る。リドルは動物園ではハリーに群がる仔猫に嫉妬したが、エリスだと何故かそれがなかった。寧ろエリスを愛しそうに撫でるハリーが愛しくて可愛い。勿論エリスも可愛い。

「君の猫?」
「ううん、リドルの猫だよ。あ、彼がリドル」
「初めまして。僕はトム・リドル。君は確か“ロン”だっけ」
「うん。ロナルド・ウィーズリー。ロンで良いよ。君は?」
「僕、ハリー。ハリー・ポッター」

 ハリーが人の良い微笑みでロンに自己紹介をするとロンはポカンと口を開いた。

「君、が?でも…男の子じゃないの?」
「ハリーは女の子だ」


 リドルはムッと眉間に皺を寄せた。ハリーが有名なのは理解した。このリアクションも理解しよう。だが何故ハリーが“男の子”だと思われているのか判らない。ハリーはこんなに可愛いのに。

「仕方ないよリドル。名前のせいじゃない?」

 ハリーは小さく笑う。今はリドルのリクエストでロングヘアーだが、ハリーは幼少の頃から髪を短くさせられた為にずっと男の子に間違われていた。最早慣れてしまったのだ。

「フルネームなんてハリー・ジェームズ・ポッターだもの」
「だからってハリーを男に間違える?」
「リドルぐらいじゃない?拘ってるの」
「拘るさ!!こんなにハリーは可愛いのに、どうして男に間違えるかなぁ?!」

 頭を抱えて仰け反るリドルにハリーは苦笑しながらエリスを撫でた。ロンはいきなりテンションが変わったリドルに若干引きながらもリドルに謝罪をした。少なくとも自分の発言にリドルが不快の思いのしたのなら謝るべきだと考えたのだ。と、いうよりも本能が告げている。彼の堪忍袋に触れるべからずと。

「あのさ…じゃあ本当にあるの?」

 エリスをリドルに返しながら首を傾げたハリーたが、彼の視線が自分の額に向かっていることに気付き前髪を上げた。


 
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