恋涙〜賢者の石〜
□お買い物 T
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ハリーは目を覚ました。差し込む光が朝だと告げている。だがどうしても瞳を開きたくなかった。瞼をキツく閉じて、昨夜起きたことを思い出す。
(夢だったんだ…)
そう、きっとあれは全部夢だったんだ。ハグリッドという“大”があと二回程続いても違和感のない男がやってきて、自分とリドルを魔法使いの学校に連れていくと言ったことや様々なことは…きっと夢に違いない。瞳を開いてしまえば、またいつもの物置(もしくは一番小さいあの寝室)でこれまたいつものように、ペチュニアおばさんが起こしに来るんだ。
「……リー…」
その時、何かがハリーの髪を優しく掻き上げた。何度も何度も、優しく髪を鋤いていく。こんなことをするのはリドルしかいない。
(…?リドルが僕より早く起きてるなんて珍しくない?)
そんなことを考えながら、くすぐったさに眉を寄せると小さく笑ったような音がしてから額に柔らかいものが触れた。ハリーは何だろう…と、思いゆっくりと瞼を開く。
「…!!」
ハリーは目を見開いた。すぐ目の前にリドルが微笑みを浮かべて自分を見下ろしている。リドルはハリーに覆い被さるような形でハリーの寝顔を見ていたのだ。
「…やっぱり、お姫様はこうでなくっちゃダメだよね」
「…?」
「ハリーは期待を裏切らないってことだよ♪」
気にしないで♪
続けて言ったリドルはかなりご機嫌に寝起きのハリーを抱き締めた。ハリーは未だに不思議そうに首を傾げている。すると暖炉の傍でハグリッドが大きく伸びをした。夢じゃなかったんだ…
「出掛けるぞハリー、リドル。ロンドンまで行って…お前さん等の入学品を揃えなきゃならんからな」
「出掛けるの?!ハリー、今日はどんな髪型が良い?アップ?縦ロール?いっそストレートにチャレンジ?」
出掛けると聞いたリドルが更に機嫌良くハリーに問い掛ける。ハリーはまだ少し眠たそうに目を擦って無言でリドルの胸に顔を擦り寄せて安堵に息を吐いた。その仕草はまるで母猫に甘える仔猫の仕草に似ていた。
「…リドルに任せる」
「じゃあ…あぁ〜…シンプルにポニーテールにしようかな♪」
リドルは嬉しそうにブラシとゴムを鞄から持ち出した。そして慣れた仕草でハリーの髪を纏めあげてゆく。
「…あ」
「ん?どうしたの?ハリー」
「…買い物に行くのに――…僕お金持ってない」
「…ぁ…僕もだ」
リドルの手がピタリと止まった。
叔父さんや叔母さんがお金を出してくれる筈はないし、ハグリッドが大金を持っているようには…見えない。ハリーとリドルは互いを見つめると申し訳なさそうにハグリッドを見た。するとハグリッドは何かにツボったのか大笑いをしていた。
「安心しろ。ハリー、お前の両親が何も遺さなかったと思うのか?リドル、お前の名付け親が名前を付けただけだと思ってるのか?」
「…遺産があるの?」
「僕に、財産を遺してくれたの?」
「そうだとも。だからまずはグリンゴッツ銀行に行こう。魔法界の銀行だ。ホグワーツ以外で何かを安全にしまうにゃあグリンゴッツが一番安心だ。さ、支度が出来たら行くぞ」
ハリーとリドルは互いの顔を見合わせると嬉しそうに微笑んだ。もはや頭の中からダーズリー一家は確実に消えている。
「もう少し待って!!ハリー今日は何を着ていくの?」
「んー…、これ」
ハリーは数少ない服から元がダドリーのお下がりだと思えないリメイク服を取り出した。青緑のチェックのシャツにインナーは白いTシャツだった。それにブーツカットのジーパンをチョイスしていた。
「じゃあ…半ポニにしようか?」
「任せるよ。僕リドルに髪弄られるの好きだから」
ハリーの満面の笑顔にリドルが嬉しそうに微笑み、三人が小屋を出たのはそこから一時間程経過してからだった。
「ねぇハグリッド」
「お?なんだ、ハリー」
「どうやって此処に来たの?」
ハリーはリドルに手を握られながら岩の上に出た。空は晴れ渡り海が陽の光を反射してキラキラと輝いていた。バーノンが借りた船はまだ其処にあったが嵐で船底は水浸しになっている。リドルが辺りを見渡しているが船はこの一艘しか見当たらなかった。
「飛んできた」
「…飛んできた?」
「そうだ。だが帰りはこの船だな。お前さんらを連れ出したから…もう魔法は使ってはいけんことになっちょる」
リドルが先に船に乗ると、不思議と水浸しだった船底がからっからに乾いてしまった。
「さぁ、ハリー」
「ありがとう、リドル」
ハリーに向かって差し伸べるリドルの手を握りながらハリーは船に乗った。あとから続いてハグリッドが乗った為、ハグリッドの重さで船が左右に大きく揺れた。リドルはバランスを崩したハリーを咄嗟に自分の腕の中に抱き寄せる。
「ありがとう、リドル」
「――ぅ、うん/////」
「?」
リドルは思わずハリーから顔を背けてしまった。