恋涙〜賢者の石〜
□生き残った…
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視界に広がる痛いほどの緑色。耳を裂くような女の人の叫び声――…
「?!」
少年は目を開いた。時計は午前8時を過ぎている。
あぁ、またあの夢か…
少年は細い体を仰向けにした。汗をかいている。目を越す前髪が額にくっついて鬱陶しい。そもそも、こんな狭い階段下の物置に“二人”で寝れば暑くて汗をかくのは当然だ。決して変な夢を見たからではない。少年は自分にそう言い聞かせた。
「いつまで寝てるんだい!!早く起きな?!」
ドンドンと扉をノックする音に無意識に眉間を寄せて睨み付けた。
「トム!!」
「煩いな…何時に起きようと僕の勝手だろ?!」
イライラしながら頭を掻く。声の主は女だった。少年は舌打ちをした。第一“トム”はミドルネームだ。何故かこの女とその家族がそっちを呼ぶのだ。少年――リドルは小さなベッドから起きると部屋(と呼ぶにはあまりにも小さな物置)を出た。朝陽が目に痛い、が、起きて一番に見るのがこの声の主では余りにも自分が悲しすぎる。目覚め一番に見るのは、やはり愛してやまない彼女の笑顔がいい。
リドルは目を擦りながら邪魔な声の主を視界に入れること無くキッチンへと向かった。ベーコンを焼く臭いと音がする。リドルは真っ直ぐにその音の元に向かった。
「おはよう、ハリー♪」
「ぅわ?!」
「もぅ聞いてよ、ハリー…夢見が只でさえ悪いのに君じゃなくてどっかの馬顔に起こされたんだよ?可哀想だと思わない?僕が」
「だからって脅かすなよ…それに夏休みだからって寝過ぎだ。あと、起こしに行ったのは伯母さんで、“どっかの”じゃないだろ」
フライパンを持った少女――ハリーに抱き着いていたリドルは頬を膨らませてむくれた。
「酷いよハリー、僕よりあいつの肩を持つの?」
「今回は寝坊した君が悪い。せっかく僕が作ってるのに、朝ごはん冷めちゃうだろ?ほら、早く座って?」
抱き着かれながらもフライパンを器用に動かしてベーコンを入れたハリーはリドルに首を傾げながら“お願い”をした。
「しょうがないなぁ、ハリーの“お願い”は僕にとっては法律だからね」
「なにが?」
リドルは、「なんでもないよ♪」と、笑って自分より背の低いハリーのフワフワした癖ッ毛の頭を撫でてからリビングの椅子に腰掛けた。するとリビングの奥から横に大きく、まるで豚のような男が不機嫌に現れた。
「おはよう、ペチュニア」
「おはよう、バーノン」
男――バーノンは、先程リドルに“馬顔”と言われた女――ペチュニアにキスをした。