Story

□彼岸思慕
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そう言って、また映姫は書面に向かい始める。

一人残された小町は立ち尽くし、そして、少しばかりの寂しさを感じた。
部下がうなだれてんのに、優しい言葉のひと言も無いのかい、この人は、と。
いや別に、そんな事を期待していた訳では無いけれど…無いのだけれど…それにしても…。今も、小町の存在など感じないように、映姫は次々と膨大な量の情報を振り分けている。

閻魔としての絶対の自信と、裏付ける能力の高さゆえに、この人は迷うことがない。
勿論その判決が間違ったことなど無いのだが…何より感じるのは、映姫が楽しそうであること。
小町にはよく理解出来ないのだが、段幕ごっこをしている時とも違う、緊張の中に垣間見える恍惚感みたいなものが、この仕事場には溢れている。
正確には、その仕事をこなす四季様から。
そして、そうやって白黒つけ、がっつり仕事をこなす四季様を見ているのが、自分は堪らなく好きなのだ。…多分、彼女が小町を気遣ってくれる事以上に。

小町は考えるのをやめ、映姫の室を出ようとした。と、書面に向かっているはずの映姫から声が掛かる。


「ああ、小町」
「何でしょうか?」
「今日、この後予定は?」
「三途の川の魂、引っ張って来ます…けど」
「そうでなくて、その後よ」
「はあ…」
「分からない?たまには一緒に飲みに行きましょう、と言っているの」


書面から顔を上げ、映姫は困ったように笑った。
…前言撤回。
やっぱり、四季様に構って貰うのは嬉しい。


「勿論、お供します!」
「ええ。楽しみにしているわ」


映姫のその言葉に一礼して、小町は一先ず今日の仕事を片付けるために、彼女の室を後にした。





END

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