企画

□金魚すくい
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「魔理沙。そっちよ」
「よしきた!」


ぱしゃぱしゃと水飛沫が上がり、一匹の赤が宙を舞った。


「これで何匹目だ?」
「13匹目ね」


苦笑するアリスの先には、器いっぱいに集まった金魚たちの影があった。



******



今夜は、博麗神社で祭が催されていた。
人間の喧騒の合間に聞こえるのは、低く響く太鼓と囃す笛の音。
昼間の閑散としたそれとは異なる境内を歩きながら、アリスと魔理沙は共に屋台を冷やかしていた。

ふと、魔理沙が足を止めたのは金魚すくいの屋台の前で、アリスは内心でため息をつきながら、彼女と同じく水槽の前にしゃがみ込んだ。

しかし、戯れで始めたつもりが、元々器用なアリスが5匹6匹と捕まえるうちに、気付けばコツを掴んだ魔理沙がその数を更に増やしていた。


「ここだな!」


そしてまた、涼しげな音と共に金魚が器へ吸い込まれる。

魔理沙は飛沫がスカートに跳ねるのも気に留めない。
一心に金魚の動きを目で追う魔理沙に、アリスは思わず目を細めるのだった。

「うん?どうしたんだ、そんなにこっちを見て」


暫くしてアリスの視線に気付いた魔理沙は、手を止めた。


「別に。そんなに夢中になるなんて、まだ幼いのね」


アリスは何でもないように、道具を店主へ返した。
ポイにはまだすくう面が残っていたが、それでも良かった。


「童心忘るべからず、だぜ」
「どこかの氷精みたいな事を言ってないで、もう行くわよ」
「そうだな。所詮、金魚だ」


道具を返した魔理沙の手には、替わりに水の入った袋に金魚が一匹だけ吊ってあった。


「あれだけすくっておいて、持ち帰るのは一匹だけなのね」
「当然だろう。金魚は本とは違うからな」


その返答に少しだけ目を丸くしながら、アリスはそう、とだけ返した。


「ところで聞きたいんだが」


魔理沙の視線は、金魚からアリスへ移る。


「どうして私と屋台を回ろうと思ったんだ?」
「…え?」
「この通り、私は自分が行きたい所にしか行かないからな?」


いいのか、といった風に、魔理沙は首を傾げる。
アリスは微かな頭痛を感じながらも、金魚のように塞がらなくなりそうな口元を必死に隠した。

「あんたがそこまで疎いとは思わなかったわ…」
「そいつは光栄だ」
「誉めてないわよ」
「あ、焼き八目鰻屋だぜ。ちょっと持っていてくれ」
「なっ…ちょっと!」


唐突に魔理沙から金魚を押し付けられ、アリスは今度は本当にため息をつく。
深く、複雑な心境の入り混じったそれを吐き出すと、袋の中の金魚が跳ねた。
なぜだか、あれだけの金魚の中から一匹だけ選ばれたそれを、少しだけ羨ましく感じた。
ゆらゆらと泳ぎ回る彼らをすくい上げるのは、それなりに骨が折れる作業なのに。


「私の心も、すくい上げてくれないものかしらね」

微かに呟いた言葉は、祭の喧騒に吸い込まれていった。








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