恋色台詞選択★51

□40.「わかってるくせに」
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今日も今日とていつものように魔法の森を抜け、霧雨魔理沙は博麗神社へ足を運んでいた。
神社へ向かうのは特に用事があるからではない。
ただ幻想郷にありがちな、暇を潰したかっただけだ。


「あれは…」


ちょうど鳥居が見えてきたところで、魔理沙は前を歩く人影に気が付き、スピードを落とした。

遠目からでも分かる風貌の持ち主、それはアリス・マーガトロイドだった。

右隣に上海人形を浮かべた彼女は、腕には何かの箱が入った紙袋を抱え、鳥居前の石段を登っている。

その姿に、魔理沙は少しの違和感を覚えた。
いつもなら今の自分と同じように空を飛んでくるはずなのに、荷物を持っている今日に限って徒歩なのはなぜか…。
疑問を持った魔理沙は、しばらく彼女の様子を窺うことにした。

石段を登り切ったアリスは賽銭箱のある幣殿を素通りし、母屋に行く際に出くわした博麗霊夢と何やら話をした後、彼女に誘われるままに母屋へと入って行ってしまった。

しばらくして縁側に出てきた彼女達は、茶を飲みながらまた話をしていたようだが、魔理沙の位置から話し声は聞こえず、箱の中身を見た霊夢が驚きの声を上げるのと、アリスが満足そうに笑ったのだけが見て取れた。

それがなぜかまでは分からなかったが、アリスが空を飛んで来なかったのは、きっと箱の中身が大切なものだったからだろう。

魔理沙は何だか面白くなかった。
アリスが神社にわざわざ歩いて来たのも、霊夢と楽しそうに笑っているのも、二人が本当に仲よさ気に見えるのも。

おかげで姿を表すタイミングを逃した魔理沙は、アリスが母屋から出て来るまで、次はどうやって重い段幕を作ってやろうか考えることで、暇を潰さなければならなかった。


*******


「で、いつまで隠れているつもりかしら?」


母屋から入った時と同じ状況で出て来るなり、アリスは困ったように呟いた。


「言わないなんて、性格悪いぜ」
「それは、なぜか隠れていた魔理沙を構わなかったことに対して?それとも、私が霊夢に会いに行ったことに関してかしら?」
「揚げ足を取るなよ」


自分で言っていて、その声が不機嫌だと言っているのが分かった。
アリスはひとつため息をつくと、手にした袋から、先ほど霊夢に見せていた箱を取り出した。


「この子をね、見せに行っていたのよ」
「…人形?」


清潔そうな白い箱の中には、上海人形と同じくらいのサイズをした人形が衝撃吸収のためのクッションと共にきちんと納まっていた。


「ええ、京人形。この国の文化について霊夢から色々と聞いていたのよ。ほら、顔つきや服装に顕れるでしょう?」


しかし、アリスのその説明は人形を作ったことが無い魔理沙にとって、納得のいくものではなかった。


「そんなものは紅魔館の図書館で学んで来いよ」
「身近に詳しい人間が居るのに参考にしないだなんて、それこそ愚かしいと思わない?」


そう言って、アリスはそっと箱に蓋を被せた。
その横顔は、この新作の人形を作り続けていたせいかいつもより白く見えたが、次に顔を上げた彼女は面白そうな色の瞳で魔理沙を見つめた。


「私が内緒で霊夢に会いに行ったりして、不安になった?」


その言葉に、魔理沙の心臓はうるさいくらいに音を立てる。


「…わかってるくせに」


やっと答えた魔理沙に、アリスは人形のように白い頬を少しだけ染めて、微笑んだ。

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