恋色台詞選択★51

□17.「それよりもキスをちょうだい」
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「倫敦、京都、いらっしゃい」


アリスは自宅で、人形たちの服を繕っていた。

魔理沙の怪我の様子も心配ではあったが、本人が良いと言っていたので、もう良いのだろう。
彼女が苦痛に顔を歪めていた時は胸が張り裂けるかと思ったが、永琳に診せると思ったよりも早く治るそうで安心した。

魔術の決界を張るのなら霊夢に頼むものと思っていたから、どんな理由にせよ、自分を頼ってくれたのは嬉しかった。
多少の魔力は消費したものの、蓬莱人形の瞳を通して魔理沙の真っ赤な顔を拝めたのは、少しだけ愉快だった。


「あんな顔、普段は見せてくれないもの…」


喜怒哀楽をはっきりと示す魔理沙ではあるが、本質まではなかなか見せてくれない。

それだけに、過日の一件はアリスの生活に潤いを与えていてくれたのだった。


「アリスー」
「誰かと思えば、」


窓の外には、話題の白黒魔法使いの姿。


「今日は窓を壊したりしなくて結構だわ」
「うるさいな。家を訪れる時の礼儀くらい知っているぜ」
「なら、玄関から入ってちょうだい」


魔理沙は戸口に回ると、すぐにアリスが居た室を訪れた。


「お邪魔するぜ」
「どうぞ。お茶、いるかしら?」
「まあそう気を遣うな。もちろんいただくぜ!」


いつもの調子で会話を繰り返した後、アリスの怪我の調子はもう良いのかという質問に、魔理沙は思い出したように持ち込んだバスケットを漁った。


「どうしたの?」
「よくぞ聞いてくれたぜ、今日は快気祝いに来たんだ」
「快気祝いね…」


つい二、三日前までうんうん唸っていたのに快気祝いとは、何ともこの魔法使いらしい。


「これは、ワイン?」
「そう。随分昔のものらしいんだが、どういう経緯なのか、紫が持って来たんだよなぁ」
「紫が?」
「ああ、突然現れるなり、アリスと一緒に飲むと良いですわ、って。熟成されててかなりのものらしいんだが…なにせ紫から渡されたものだからな」


あいつが素直に渡すとは思えない、というのが魔理沙の見解だったが、アリスはそう危険な気配を感じなかった。
それを伝えると、魔理沙は少しだけ驚いたように見えたが、すぐに開けてみようという話になった。
アリスが人一倍警戒心の強いのを思っての事だろうが、実はアリスだって自分の判断にそれなりに驚いてはいたのだ。

そして、コルクを開けたワインの豊熟な香りが部屋を包むと、やはりたいした事では無いように思えた。
アリスの思った通り、そのワインは濃厚な味わいを二人にもたらしたものの、例えば毒といったものは感じられなかった。


「な、アリス」
「何かしら?」
「この前は、ありがとな」
「構わないわよ。治って良かった」


魔理沙の話はもちろん、アリスが彼女を手当した件についてだった。


「本当は、自分で選んでお礼しなきゃって思ったんだけどな」
「いいわよ。ライバルでもある私を新術の実験に呼んでくれたんだから」
「それでも、さ、」
「だったら…」


アリスはふと、昼間考えた事を思い出して、アルコールで朱くなりかけた魔理沙の頬に触れた。


「それよりも、キスをちょうだい」
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